Proact’s View Vol.1 不祥事の対外公表を避けながら、 社員に再発防⽌を徹底できるか?

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Points of View

  • 不祥事を対外公表するかどうかは、経営陣の経営判断事項
  • 不祥事の再発防⽌は、経営陣の内部統制整備義務の⼀内容
  • 不祥事の対外公表を避けながら社員に再発防⽌を求めると、何が起きるか?
  • 再発防⽌の実効性を最⼤化する“未来志向”を

■企業で発覚した不祥事を対外公表するかどうか、公表するとしても、いつ何をどのように公表するかは、経営陣の経営判断に委ねられる事項です。経産省のグループガイドライン96⾴は、「被害の⼤きさ(⼈の⾝体の安全や健康に関わるものか)や影響範囲(不特定多数に及ぶか、継続しているか)等を踏まえ」としており、このような判断材料に基づいて対外公表の要否を経営判断することになります。

■企業で不祥事が発覚すれば、今後同様の不祥事が再発することを防⽌するために内部統制を整備することは、経営陣(取締役・監査役等)の善管注意義務の⼀内容となります。そこで、実務では、企業が不祥事を対外公表しない場合でも、再発防⽌策を社員に⽰して徹底することになります。

■では、不祥事の対外公表を避けながら社員に再発防⽌を求めると、何が起きるでしょうか?
たとえば、部品メーカーA社が製造販売する部品Bで検査不正が発覚し、部品Bを販売した全ての顧客(完成品メーカー)に事情を説明し、対外公表せずに是正する⽅針で全ての顧客と合意できたとします。次に経営陣は、今後同様の検査不正が再発しないよう再発防⽌策を社員に⽰して徹底したいと考えます。 ところが、部品Bで検査不正が起きたことを社員に伝えると情報が社外に流出するリスクが⾼まるので、経営陣はこれを社員に隠したまま再発防⽌の徹底を求めます。すると、何が起きたのか(事実関係)、なぜ起きたのか(原因分析)を社員に教えないまま、何を起こしてはいけないか(再発防⽌)だけを教えることができるのか?仮にできたとしても、その再発防⽌の実効性は⼤きく削がれるのではないか?という疑問が⽣じます。 また、社員の中には、部品Bで起きた検査不正に関与して厳しい処分を受けたり、その噂を伝え聞いたりした⼈たちが多くいます。そうした社員の⽬からは、「ウチの経営陣は、社員には厳しい処分や再発防⽌を課しながら、⾃分たちは不祥事を世間に隠してのうのうと過ごしている」「こんな不誠実な経営陣は信頼できない」と映るのではないか?経営陣への信頼が損なわれた状況で社員に再発防⽌を求めても、その実効性は上がらないのではないか?という疑問が⽣じます。

■不祥事対応に当たる経営陣に最も拘ってほしいのは、過去の不祥事をどう後始末するかという後ろ向きな姿勢から脱却し、企業の将来価値をどうデザインしていくか、そのために再発防⽌の実効性をどう最⼤化するか、そのために社員にどのように働き掛けてリーダーシップを執っていくか、というプロアクティブな“未来志向”です。社⻑が不祥事を対外公表して頭を下げれば、社員には「⼀緒に再発防⽌を推進して社⻑を⽀えよう」という連帯感が⽣まれ、その連帯感は企業の将来価値を⼤きく押し上げます。こうしたことも考え併せながら、不祥事の対外公表の要否を経営判断していただくことをお勧めします。