Proact’s View Vol.2 海外⼦会社のブラックボックス化を避けるための具体的⽅策

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Points of View

  • コロナ禍での海外⼦会社のブラックボックス化・不正リスクの懸念
  • 本社リスク管理部(2 線)・内部監査部(3 線)からの「⽀援」:メインライン
  • グローバル内部通報窓⼝の活⽤:サブライン

ブラックボックス化・不正リスクの懸念

新型コロナウィルスの感染拡⼤に伴い、⽇本⼈駐在員の⽇本への帰任や⼀時帰国が進みました。⽇本⼈駐在員からの報告に頼って海外⼦会社の状況を把握していた多くの企業では、海外⼦会社の状況はより⾒えづらくなり、海外⼦会社の「ブラックボックス化」が進んでいます。

これに伴い、⼦会社役職員による不正(横領やキックバック等)や贈収賄のリスクはより⼀層⾼まっており、実際に⽇本⼈駐在員が⼀時帰国中に⼦会社の現地スタッフにより横領されてしまった等のご相談が増えています。

本社リスク管理部(2 線)・内部監査部(3 線)からの積極的な「⽀援」:メインライン

コロナ禍において、海外への渡航は制限され、従前⾏っていた本社リスク管理部(3 線モデルにおける 2 線)及び内部監査部(3 線モデルにおける 3 線)による往査は難しくなりました。⼀⽅で、Zoom 等のウェブ会議システムの利⽤が活発となり、海外⼦会社の役職員といつでもオンラインで会議・ヒアリング等ができるようになり、いつでも現地役職員の声を聴くことができるようになりました。

ウェブ会議でのコミュニケーションには、微妙なニュアンスが感知できない等のデメリットもありますが、何度も会議を設定することにより、本社の考えを直接伝えることができ、現地役職員との信頼関係も⽣まれ、実効性のある意⾒交換が実施できます。実際に、内部監査の⼀環としてフォローアップ(⽀援)会議を毎⽉開催し、現地の事業を踏まえて具体的な質問等を⾏うことで、(はじめは話してくれなかった)現地⼦会社での課題や不正の兆候等についても話してくれるようになり、早期の改善につながったという事例もあります。

この際に重要となるのは、海外⼦会社を「⽀援」したいという本社側の意識です。本社担当者は、海外⼦会社を「牽制」「監査」するという意識が強くなってしまう傾向があります。しかしながら、その意識は海外⼦会社にも伝わり、必要なリスク情報を収集することが難しくなってしまいます。

⼀⽅、同じグループの同志として「⽀援」したいとの意識で積極的にコミュニケーションを取れば、必ず現地の役職員にも伝わり、リスク情報も積極的に共有してくれます。⼀例を挙げれば、「賄賂を⽀払っていませんか」という質問ではなく、「許認可の取得・更新の時、困ったことはなかったですか」「どんなことで困りましたか」「その時誰に相談して、どのように対応しましたか」「何か本社としてお⼿伝いできることはありませんか」等、「⽀援」の視点をもって質問を少し⼯夫することで聞き出せる情報の質は変わってきます。

グローバル内部通報窓⼝の活⽤:サブライン

ブラックボックス化を防ぐためのもう 1 つの⼿段として、海外⼦会社の現地役職員から本社に直接報告される「グローバル内部通報窓⼝」の活⽤が挙げられます。グローバル内部通報窓⼝は、現地役職員の⽣の声を聞ける有効な⼿段です。

しかし、私の経験では、そもそも現地(特に新興国)の役職員は、そもそも内部通報窓⼝の意義や役割、どのようなことを通報すれば良いのか理解していないことが多いと⾔えます。

内部通報窓⼝の実効性を上げるためには、現地の⽂化・法令を理解したうえで、1.どういう制度なのか、2.本社としてはどのようなことを通報して欲しいのかを、具体的に伝える必要があり、説明⽂のメール送信や社内イントラ掲載だけでは不⼗分で、現地での社内研修や説明会の実施とセットで⾏う必要があります。

もっとも、グローバル内部通報窓⼝は、職制上のレポートラインが⽬詰まりを起こして正常に機能しなくなった場合のバイパスライン(サブライン)に過ぎません。リスク情報を迅速に経営層に伝えるためには、平常時から機能すべき上述のようなメインラインに磨きをかけることが必要であることを忘れないでください。