Proact’s View Vol.3 取締役会の実効性評価をより有効なものにするには?

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Points of View

  • 何のための取締役会評価なのか
  • 有効な取締役評価にするために重要な経営課題に着⽬しよう
  • 取締役会評価の主要な⽬的、⽅法、項⽬等と重要な経営課題をリンクさせよう
  • 改善の課題抽出・計画の策定と実⾏で PDCA を回すことが評価の最⼤の成果である

何のための取締役会評価なのか

コーポレートガバナンス・コード(CG コード)補充原則4−11③が取締役会の実効性評価を⾏うべきであると述べてから、取締役会評価に取り組み始めた企業が多数現れました。⾃⼰評価だけでなく第三者評価まで組み込むところもあり、取り組み⽅は様々ですが、開⽰の分量は少なく、多くの開⽰例は形式的に⾒えます。また、継続的に評価を実施している企業では、評価の在り⽅に疑問を抱きつつも定性的評価を継続して⾏うという理由で評価項⽬を変えることに躊躇を抱いている事務局が多いと認識しています。

このような状況下で、直近の取締役会の実効性評価が良好と開⽰されているのに、その企業の業績が数年にわたり少しも伸びておらず経営の改⾰も進んでいないように思える場合やその企業において⼤きな不祥事が発覚した場合には、投資家は開⽰される取締役会評価に違和感を強く感じますし、事務局も何のための評価だったのかという失望を感じるでしょう。総じて、何のために取締役会評価をしているのかが明確でない開⽰例が多いという印象を持っています。

有効な取締役会評価にするために重要な経営課題に着⽬しよう

CG コードは取締役会の役割・責務を実効的に果たしているかを評価すると⾔っていますが、企業が置かれている具体的状況と経営課題により取締役会が果たすべき役割も重点が変わるはずです。取締役会の主要な役割は、企業戦略の⼤きな⽅向性を決め、リスク管理体制を整え、成⻑のための重要課題に関する経営陣の働きを監督して企業価値を⾼めることにあるわけですから、評価期間の経営の重要課題に着⽬し、取締役会がその経営課題にどう取り組んだのか、また、何を改善すべきかを、取締役会評価によりあぶり出すという視点をもちましょう。

取締役会評価を⾏う主要な⽬的等と重要な経営課題をリンクさせよう

例えば、国内事業は⻑期にわたり利益をあげているのに、海外投資が何期も⾚字を出し続けており成⻑を阻む要因となっている企業では、経営の重要課題は海外戦略です。海外投資を評価し継続するかどうかという議論を⾏っているか、その議論を⼗分に⾏うのに必要な資料が共有されているか、その議論の質はどうか等の点が取締役会評価で取り上げられるべきで、取締役会評価の主要な⽬的は海外戦略の検討状況とその監督の実効性に⼒点が置かれるべきです。

他⽅、会計不正やコンプライアンス上の重⼤な問題が発⽣している企業では、当⾯の重要な経営課題は内部管理体制の改善ですから、内部統制を取締役会が評価し監督していたかどうかが評価の対象となるべきでしょうし、更には内部統制強化のため取締役会の構成が適切なのかにまで検討が及ぶ可能性もあります。

このように、各企業が置かれた具体的状況によって経営課題は変化するので、取締役会評価の主要な⽬的は変わる可能性があり、また⽬的により⼒点を置くべき評価項⽬も変わってきます。取締役会の構成にまで議論が及ぶならば第三者評価を⼊れたほうが独⽴性ある評価ができる可能性が⾼まるので、評価⼿法にも影響します。

したがって、取締役会が企業の現状と重要な経営課題を把握し、その課題を対象として取締役会の実効性評価を⾏うという合意形成をすることが、有効な取締役会評価につながります。またそういう議論を通じて取締役会の責務がより明確になり、ボードとしての⼀体感の醸成にも繋がるでしょう。

課題抽出と改善計画の策定・実施で PDCA を回すことが評価の最⼤の成果

取締役会評価の結果や改善の課題を⽰さない開⽰例も⽬⽴ちますが、実効性評価をPDCA の⼀環とし、課題を抽出し改善計画を⽴案することこそ取締役会評価の最⼤の成果物です。この点、エーザイの 2021 年度コーポレートガバナンス報告書が、前年度の課題認識に基づき当年度の活動を評価し次年度に向けた課題抽出及び改善策等を⽰すことでPDCA のサイクルを回していると述べるだけでなく、さらに進んで前年度における課題(計画)、実⾏と評価、翌年度の改善点の具体的な検討過程や議論の内容を開⽰しているのが⼤変参考になるでしょう。