Proact’s View Vol.4 「⼈的資本経営」時代、開かれた HR 部⾨へ

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Points of View

  • 経営陣(CHRO)のイニシアティブにより、経営戦略と連動した⼈材戦略を策定
  • パーパスや経営戦略から導かれる⼈材戦略ストーリーが投資家の好評価に繋がる
  • ⼈的資本情報の開⽰は、会社の価値・魅⼒を⽰す重要な経営課題として取り組むべき

⼈的資本経営で変わる⼈材ガバナンス

企業の⼈事(HR)部⾨は、近年、⽬まぐるしく転換期を迎えてきました。今向き合うべきは「⼈的資本経営」です。

⼈的資本経営は、従来、「資産」と考えられていたヒトを「資本」と位置づけ、それにかかる⼈件費も「費⽤」ではなく「投資」と捉えなおし、⼈材戦略を経営戦略に連動させようとする考え⽅で、いわゆる「⼈材版伊藤レポート」及び「⼈材版伊藤レポート 2.0(案)」において整理されました。その⽬的は、変化の激しい環境において、企業の競争⼒の源泉である⼈材(⼈財)にスポットを当て、企業価値の持続的な向上に繋げることにあります。

そのためには、経営戦略と連動した⼈材戦略を策定し、それを実⾏することが必要です。この取組みを経営陣がイニシアティブを取って推し進めるべく、「⼈材版伊藤レポート」では、経営陣の中に最⾼⼈事責任者(Chief Human Resource Officer: CHRO)を創設するとともに、取締役会がモニタリングを⾏うガバナンスが提⾔されています。

加えて、⼈材戦略についての投資家との対話が提⾔されていることも重要なポイントです。これまでは、⼈事情報の機密性の⾼さばかりが強調され、社内でも⽐較的閉ざされていた⼈事(HR)部⾨ですが、今後は、社外のステークホルダーとの対話も求められることとなり、「開かれた HR」への⼤きな変⾰が求められます。

⾮財務情報としての⼈的資本情報の開⽰

このような⼈材戦略やその進捗は、投資家にとっても、経営戦略の実現可能性や会社の持続可能性を⾒極め、投資判断を⾏うにあたって関⼼の⾼い情報です。そのため、2021 年6 ⽉に改訂されたコーポレート・ガバナンスコード(以下「CG コード」)では、経営戦略・経営課題と整合した⼈的資本への投資を⾮財務情報として開⽰・提供すべきであるとされています。そして、早ければ 2023 年度には、⼈材育成⽅針、社内環境整備⽅針、測定可能な指標(インプット/アウトカム)、⽬標及び進捗状況等を、有価証券報告書の記載事項とすることが検討されています。これは、虚偽記載があれば刑事罰の対象となり得ることも意味します。

既に上場企業は、CG コードに基づいて、コーポレート・ガバナンス報告書でこれらの情報の開⽰にも取り組んでいますが、投資家の期待との間にはギャップも⾒られます。三井住友トラスト・グループが実施した「ガバナンスサーベイ 2021」では、多くの投資家は「経営層・中核⼈材の多様性の確保⽅針」や「中核⼈材の多様性に関する指標」の開⽰を期待しているにも関わらず、これらを開⽰している企業は限定的で、最も多い開⽰例は「⼈材育成⽅針・社内環境整備⽅針」であったとされています。

最初は⽅針を策定し開⽰することから取組みを始めるとしても、投資家からの⾼い評価を得るには、各社の存在意義(パーパス)や中⻑期的な経営戦略に紐づけながら、経営層、管理者層等の職位層ごとに具体的な⼈材像を定め、その活躍により企業が持続的に発展するストーリーを明快に語ることが重要であるといえます。

⼈的資本情報の開⽰により、会社の魅⼒を社内外に伝えよう

⼈材戦略のストーリーを開⽰することは、投資家との関係だけでなく、競争が激化する労働市場において、有能な⼈材を獲得する上でも重要です。ウェルビーイング(働きがい、働きやすさ)が重視されるなか、⾃⾝の働きが会社や社会の発展に繋がることを具体的にイメージできる会社に⼈材は集中します。また、社内でも、CHRO が⼈材戦略について熱く語りかけることで、職員の働く意欲が⾼まり、⼈材の育成にも繋がるでしょう。

⼈的資本情報の開⽰は、会社の価値や魅⼒を伝える有効な⼿段として、⼈事(HR)部⾨だけでなく、経営企画部⾨や法務・コンプライアンス部⾨等も交えながら、会社全体で議論すべき重要な経営課題として捉える必要があります。