Proact’s View Vol.6 Board3.0 の議論を、戦略策定・実施・検証・⽀援とリスク管理強化のためのきっかけとしよう
Points of View
- Board 3.0 は、投資家から派遣された戦略⽴案・遂⾏を検証⽀援する社外取締役を受け⼊れ、従来型の取締役とともに経営を変えるという新たなモデルである。
- Board2.0 の限界による成⻑鈍化に新たな解決の道を⽰そうと意図されたものであり、Board1.0 の上場企業が多い我が国における導⼊には留意すべき点がある。
- Board3.0 の最も重要なメッセージは、成⻑のための戦略策定・実⾏と検証・⽀援のための体制を作り出すべきだという点である。
- 成⻑戦略策定・実⾏とそれにともなうリスク管理体制の強化をはかるため、成⻑⽬標と取締役会の構成の⾒直しと執⾏⼒の強化こそ、上場企業が今すぐに着⼿すべき施策である。
Board 3.0 の議論と⽶国での実施例
最近、Board3.0 がホットトピックとなっています。我が国では CG コードが⽬標とした企業の稼ぐ⼒の復活が未だ達成されておらず、不祥事も⽇本を代表する企業に多発しており、東芝のように投資ファンドが取締役派遣を強く求めた事案に象徴されるファンドと経営陣との主導権争いもあって、この議論が急速に注⽬されていると思われます。
Board3.0 は、取締役会はアドバイザリーボード(Board1.0)からモニタリングボード(Board2.0)に進展してきたが、企業の経営規模の拡⼤、市場環境の複雑化、法規制の複雑化や国際市場の変化等経営環境の⼤変化の中で、Board2.0 における独⽴取締役は「情報の不⾜」、「リゾースの不⾜」、「意欲の限界」という 3 つの限界から企業の戦略⽴案・検証の⾯では機能不全に陥っているという評価のもとに、従来の取締役に加えて、企業の戦略⽴案及び戦略遂⾏を検証・⽀援する取締役を⻑期的投資家から⼊れて戦略検証委員会を設置するモデルを実施するという提案です。
⽶国ではアクティビストファンドが取締役を派遣し Board3.0 が実践されている上場企業は 44 社あり、マイクロソフト、アビド、CBRE グループ、MSCI などの⼤企業が⼤きく成功しているという報告がなされています。
Board 3.0 を我が国で議論するときの 3 つの留意点
Board3.0 を我が国で議論する際には注意すべき点が 3 点あります。第⼀に、Board3.0 はモニタリングボードの⾏き詰まりを打開しようと意図するものであって、国際化した⼤企業の複雑なオペレーションを念頭においている点です。我が国では未だ Board1.0 の状態にある上場企業が多数あり、監査等委員会設置会社に移⾏した企業でも Board2.0 の状態にあるものはまだ多くはないと思われ、Board3.0 の議論がそのまま検討に値する上場企業の数は限定されているという点です。
第⼆に、⽶国では取締役を派遣する投資家と会社の間で投資家の保有株⽐率を変化させない等、利益相反を防⽌し会社に対する忠実義務を履⾏させるためのスタンドスティル契約が締結されたうえで Board3.0 が実施されているという点です。Board3.0 の⼀部の論者はこの点を考慮せず、業績が伸びない企業の経営改⾰のために導⼊すべきと主張していますが、スタンドスティル契約の実務は我が国では定着しておらず、何を規定するのが妥当なのかは法的効⼒も含めてこれから議論が始まる状況にあります。
第三に、Board1.0 に留まっている上場企業⼜は Board2.0 にある上場企業で毎年安定した業績をあげキャッシュリッチだが成⻑余⼒にみあった成⻑をしていない企業は、アクティビストファンドから Board3.0 の要求をうける絶好のターゲットになってきているという点です。円安が進⾏し⽇本株には割安感がでていますから、アクティビストファンドは⽐較的低い投資⾦額で株式を買い集めて会社⽀配に影響⼒を及ぼすことができます。ガバナンス改⾰がまだ遅れている上場企業こそ、⾃社のガバナンスを早急に⾒直し、成⻑戦略に結び付けることを検討しなければなりません。
Board 3.0 のメッセージを理解し実施するための 3 つの留意点
Board3.0 の最も重要なメッセージは、成⻑のための戦略策定・実⾏と検証・⽀援が効果的に実⾏できる取締役会を作り出すべきだという点であり、これはどの上場企業にも当てはまるものです。この点、Board1.0 であっても Board2.0 であっても ERM(統合的リスクマネジメント)が実⾏できる内部統制が整備されていることが前提なのです。営業⼒はあっても戦略策定・実⾏やリスク管理体制が弱い上場企業がまだまだ多い中、各企業が成⻑戦略策定・実⾏⼒とそれにともなうリスク管理体制の強化をはかることこそ、上場企業がすぐにでも着⼿すべきものです。その実施についていくつか留意すべき点を掲げます。
第⼀は、⾃社の成⻑⽬標が資本コストからみて市場に評価され得るものなのか、また取締役会が⽬標、投資戦略とリスクを議論しかつ検証できる構成になっているかを真剣に⾒直すことです。これを⾏うにはスキルマトリックスが有効ですが、役員候補者の形式的経歴をみているだけでは⾜りません。社外役員が⼗分な経営経験やリスク管理経験をもっているのかを⼗分に検討することです。
第⼆は、⾃社の執⾏⼒を向上させる施策を⼈事⾯も含めて検討することです。ここでいう執⾏⼒とは、戦略策定・実⾏・リスク管理・検証の四機能を指し、これを⾼めていくことに注⼒すべきです。戦略策定は市場環境の変化による成⻑の機会を⾒逃さない⼈材が必要であると同時に、戦略実⾏にあたり想定されるリスクを迅速に指摘し対応策提案できる⼈材、戦略を念頭におきつつ組織の各部⾨に期待されている機能が発揮されているかを検証する内部監査部⾨の充実も必要です。これは⾃社だけのオーガニックな養成に頼っていてはむずかしく多様な⼈材を積極的に採⽤していくべきでしょう。
第三は、成⻑があまり実現できていないが内部留保はある企業は、事前警告型買収防衛策を検討するかもしれませんが、買収防衛策に対しては機関投資家も議決権⾏使助⾔会社もネガティブですし、また買収防衛策でその場をしのぐだけでは投資家は経営陣に⾒切りをつけるでしょう。あくまで上記の 2 点に⼒点をおき経営改⾰を推し進めつつ、現状の市場状況からみてありうる買収リスクに注意を払うべきでしょう。投資と成⻑こそが最強の買収防衛策だからです。