Proact’s View Vol.7 【現地発!】⽇系メーカーの海外⼯場オンサイト⼈権 DD から⾒えてきたもの

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Points of View

  • 弁護⼠ 2 名が先週ジャカルタに渡航、⽇系メーカー⼯場でオンサイト⼈権 DD を実施
  • ⼈権 DD についての現地の⾁声は、実務対応のハードルの⾼さを伝えるものだった
  • ⾃社⼯場から始める、サプライヤーはその先、複数年度にわたる計画を⽴てる
  • サプライヤーリストを作り、リスクアセスメントを綿密に⾏う
  • 本社からの「本気の⽀援」と「実を伴った実態把握」が実効性を⾼めるポイント

■本年 9 ⽉ 13 ⽇に経産省が「責任あるサプライチェーン等における⼈権尊重のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)を策定公表し、⼈権デュー・ディリジェンス(以下「⼈権 DD」)をどのように始めたらよいかというご相談も増えてきました。

そうした中、弁護⼠⽵内朗と⽥中伸英(ジャカルタの法律事務所に 3 年半勤務経験あり)は、先週、インドネシアの⾸都ジャカルタに渡航し、多くの⽇系企業の駐在員や現地専⾨家らと⼈権 DD について情報交換を⾏いました。また、多くの⽇系メーカーの⼯場がある⼯業団地を訪問し、⽇系メーカーの駐在員の⽅々向けに⼈権 DD のセミナーを開催しました。
そして、複数の上場⽇系メーカーからご依頼を受け、複数の現地⼯場を訪問し、オンサイト⼈権 DD として、原材料から製造・検査・製品出荷までの⽣産ラインを歩いて実地検分し、ローカルスタッフを含む関係者への対⾯インタビューを⾏ってきました。こうして現場を踏むことで、リアルかつフレッシュな情報に触れてきました。

■⼈権 DD についてのリアルな現地の⾁声を、以下にお伝えします。

  • 経産省のガイドラインやこれから⼈権 DD が始まることは知らなかった(本社から伝達を受けて知っている⽅も少数いらした)
  • ⾃社の⼯場で⼈権 DD をするとしても、やり⽅が分からない
  • 本社から⼈権 DD のアンケートが届いたら、何も問題はないという認識のとおりに回答するだろう
  • これまで本社の内部監査部⾨や顧客から CSR 調達について監査を受けたことはあるが、⼈権にフォーカスしたものはなかった
  • 欧⽶の先進企業が顧客になる製品については、Sedex など外部機関による監査を受け、監査⼈が⼯場に来て⽣産ラインの視察やインタビューを受けることもあった、そこでは⼈権がテーマになることもあった
  • 顧客から監査を受けた際も、「サプライヤーに対して⼈権 DD をしているか?」と聞かれたことはほとんどなかった
  • もしサプライヤーに対して⼈権 DD が必要になったら、アンケートに回答してもらうことは考えられるが、サプライヤーの⼯場にオンサイトで監査できるような契約条項にはなっていない、オンサイト監査を⾏うスキルもリソースも持ち合わせていない
  • もしサプライヤーに⼈権問題があったとしても、品質・コスト・供給能⼒の問題から、簡単に別のサプライヤーに乗り換えられるわけではない、かといってサプライヤーに⼈権問題の解決を働きかけたら、サプライヤーから契約を切られてしまうかも知れない(バイヤーの⽴場が必ずしも強いわけではない)、あるいは⼈権問題の解決に要するコストが購買価格に転嫁されるかも知れない、そうなると⾃社の利益が圧迫されるが、その分を顧客への販売価格に転嫁することは容易ではない
  • 「ハラール認証」を取る製品が⾷品以外でも増えてきている、「森林認証」「フェアトレード認証」などのように、「⼈権認証」のような制度ができてくれると、顧客への販売価格に転嫁しやすくなってありがたい
  • サプライチェーン全体で⼈権尊重をという理念には共感するが、これを現地に持ち込むには⾼いハードルがあり、やるのであれば予算や⼈員を含めた本社からの「本気の⽀援」が⽋かせない

■多くの上場企業では、次年度から⼈権DDの予算を確保して取組みを開始し、本社の担当部署が、国内及び海外の⼯場に対し、⼈権DDのアンケートを配付することから始めるのではないかと思います。上述した現地の⾁声も念頭に置きながら、⼈権DDの実効性をより⾼めるための⽅策や留意点を、以下に述べます。

  • まずは自社工場への人権 DD を実施する、サプライヤーへの人権 DD はその先のことと割り切る、息の⻑い活動になることを覚悟し、複数年度にわたる計画を立てる
  • サプライヤーリストを作り、各サプライヤーに対するリスクアセスメントを綿密に行う、何を仕入れているか、その原材料は何か、その原材料はどの国で採取されるか、その国での採取についてネガティブ情報はないか(たとえば海外 NGO による糾弾、ネットやSNS の書き込み、紛争鉱物)、そのネガティブ情報は信頼できるか(たとえば海外 NGOの評判)、などをチェックしてリスクの濃淡をつける
  • こうしてリスクの最も高いサプライヤー数件に絞り込み、パイロット的に、サプライヤーへの人権 DD と働きかけを試みる、最初から面ではできないので点から始める、その中で、サプライヤーへのオンサイト監査、契約条項の改訂、購買価格への転嫁といった応用問題への対応力を磨いていく
  • 現地を動かすには、本社からの「本気の支援」が欠かせない、人権 DD に要する予算も人員も本社から支給し、工場に負荷をかけない、人権 DD は工場の仕事ではなく本社の仕事と覚悟する
  • 「実を伴った実態把握」(日本取引所自主規制法人「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」原則1参照)が人権 DD の実効性を高める最大のポイント
  • 問題なしというアンケート回答を集めることを自己目的化するのは危ない、人権 DD の出口はステークホルダーへの開示であり、現地の実態に即していない開示をすることは「人権ウォッシュ」と非難されるリスクを孕む

■プロアクト法律事務所では、こうした現場経験を踏まえて、これから⼈権 DD を始めようとする企業に対し、

  • 本社が自社工場やサプライヤーへの人権 DD に取り組む際のサポート
  • 海外工場が本社からの人権 DD に対応する際のサポート
  • ネガティブ情報がある自社工場やサプライヤーに対する調査・折衝のサポート
  • 顧客や外部機関による監査、海外 NGO に対応する際のサポート

といった各種サービスを提供しております。まずはお気軽にご相談いただければ幸いです。