Proact’s View Vol.12 外国公務員贈賄罪防⽌に本気で取り組むときがきた〜罰則強化・拡充を踏まえたコンプライアンス体制のポイント〜

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Points of View

  • 外国公務員贈賄罪の罰則強化・適⽤範囲拡充及びエンフォースメント強化の流れ
  • コンプライアンス体制強化に本気で取り組むべき
  • コンプライアンス体制強化のポイントは、「現地の強化」、「経営トップによる具体的で分かりやすいメッセージ」及び「⽇本本社 2 線の⽀援」の3つ

改正の概要

不正競争防⽌法の改正が 2023年6⽉7⽇に可決・成⽴し、同⽉14⽇に公布され、現時点では 2024年4⽉1⽇(※1)に施⾏予定となっています(以下「本改正」といいます)。
本改正の内容としては、主に(1)法定刑の引き上げ(それに伴う公訴時効の延⻑も含む)と(2)国外犯の処罰範囲の拡⼤となっています。本改正により外国公務員贈賄罪は、ホワイトカラー犯罪の中で最も厳しい量刑が課される犯罪となります。

(1)法定刑の引き上げ

外国公務員贈賄罪を犯した⾃然⼈に対しては、本改正前は5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰⾦⼜はこれを併科するとされていましたが、本改正後は10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰⾦⼜はこれを併科することになります(これに伴い公訴時効も7年となります)。
かかる外国公務員贈賄罪については、両罰規定があり、その法定刑は、本改正前は3億円以下の罰⾦とされていましたが、本改正後は 10 億円以下の罰⾦に引き上げられています。

(※1)令和5年10⽉経済産業省知的財産政策室「外国公務員贈賄罪に係る法改正事項について」5⾴

(2)国外犯の処罰範囲の拡⼤

本改正前は、外国公務員贈賄罪については、属⼈主義(※2)により処罰対象は⽇本国⺠のみであり、外国籍の従業者が国外で外国公務員贈賄罪を⾏った場合、処罰対象とされていませんでした。


本改正後は、⽇本企業の外国⼈従業者が国外において単独で外国公務員贈賄罪を⾏った場合にも処罰対象とするため、⽇本国内に主たる事務所を有する法⼈の代表者、代理⼈、使⽤⼈その他の従業者(※3)であって、その法⼈の業務に関し、国外において外国公務員贈賄罪を犯した⽇本国⺠以外の者にも罰則を適⽤することになりました。


すなわち、本件改正後においては、以下の表のとおり①⽇本企業(⽇本に主たる事務所を有する法⼈)の外国⼈従業者、②⽇本企業の海外⽀店・営業所等(⽇本企業と同⼀の法⼈格=⽇本企業)の外国⼈従業者及び③⽇本企業の海外⼦会社、代理店等(外国法⼈)の外国⼈従業者であって実質的に⽇本企業の従業者である者が、外国公務員贈賄罪を⾏った場合には処罰の対象とされると共に、当該外国⼈従業者を雇⽤等している⽇本企業も両罰規定の対象となります。どういった場合が「実質的に⽇本企業の従業者」と認定されるかは、現時点で確定的な解釈基準が定まっているわけではありませんが、⽇本企業からの指⽰の有無、⽇本企業に利益が帰属するか等から総合的に判断されるものとなると考えらえます。

⽇本⼈従業員外国⼈従業員両罰規定の適⽤対象
⽇本企業処罰対象処罰対象⽇本企業
海外⽀店・営業所処罰対象処罰対象⽇本企業
海外⼦会社・代理店等処罰対象実質的に⽇本企業の従業者ならば処罰対象⽇本⼈/外国⼈従業者が実質的に⽇本企業の従業者⇒⽇本企業が両罰規定の対象
外国時従業者が、実質的に海外⼦会社・代理店等の従業者⇒適⽤対象外

外国公務員贈賄のエンフォースメント強化の流れ

本改正は、外国公務員贈賄罪を含む腐敗防⽌のエンフォースメントに積極的な⽶国等に⽐べて、⽇本における外国公務員贈賄罪の適⽤が「著しく低い」⽔準であるとのOECDの勧告を踏まえて、外国公務員贈賄罪をより⾼い⽔準で的確に実施するためとされています。
このような改正経緯を踏まえると、⽇本における外国公務員贈賄罪のエンフォースメント強化の流れは今後も続くことが予想され、捜査機関も積極的に捜査、訴追を⾏うことになると思われます。

コンプライアンス体制強化の3つのポイント

外国公務員贈賄罪は、特に発展途上国においては発⽣するリスクが⾼いことに加えて、本改正により⼀段と法定刑が重くなり、かつ、外国⼈従業者に対する適⽤範囲及び法⼈に対する両罰規定の適⽤範囲も拡充されています。更にはエンフォースメントの強化がなされることが予想される状況において、⽇本企業は、本気で外国公務員贈賄罪の防⽌・発⾒に資するコンプライアンス体制を強化しなければならい状況となったといっても過⾔ではありません。
コンプライアンス体制を強化したとしても、違反が完全に防⽌できるわけではないかもしれませんが、整備・強化を怠ればこれまでに以上に取締役及び監査役の善管注意義務違反があったとされるリスクが増すことになるでしょう。
このような状況のもと、以下では企業が整備・強化すべきコンプライアンス体制の3つのポイントを提⽰します(コンプライアンス体制の構築は、本来防⽌だけでなく、発⾒統制も加味して構築されるべきですが、本記事では、紙⾯の関係もあり「防⽌」の側⾯を中⼼に述べます)。

(※2)⾃国の国⺠によって犯された犯罪については、その犯罪地いかんにかかわらず、⾃国の刑罰法規を適⽤する主義。

(※3)改正法交付当時は「従業員等」と記載をされていたが、「従業者」=「直接、間接に事業主の統制、監督を受けて事業に従事している物をいい、 契約による雇⼈でなくても、事業主の指揮の下でその事業に従事していれば従業者であるとされている」に修正されることなった。

対する両罰規定の適⽤範囲も拡充されています。更にはエンフォースメントの強化がなされることが予想される状況において、⽇本企業は、本気で外国公務員贈賄罪の防⽌・発⾒に資するコンプライアンス体制を強化しなければならい状況となったといっても過⾔ではありません。

コンプライアンス体制を強化したとしても、違反が完全に防⽌できるわけではないかもしれませんが、整備・強化を怠ればこれまでに以上に取締役及び監査役の善管注意義務違反があったとされるリスクが増すことになるでしょう。

このような状況のもと、以下では企業が整備・強化すべきコンプライアンス体制の3つのポイントを提⽰します(コンプライアンス体制の構築は、本来防⽌だけでなく、発⾒統制も加味して構築されるべきですが、本記事では、紙⾯の関係もあり「防⽌」の側⾯を中⼼に述べます)。

(1)「現地の強化」

外国公務員に対して賄賂を提供する主体は、外国に駐在(出張等で派遣される従業者も含む)している⽇本⼈⼜は海外営業所・⼦会社等の従業者であり、⾏為地は現地(以下では外国公務員贈賄罪の実⾏⾏為がなされる外国を「現地」といいます)となることが⼤半です(※4)。すなわち、外国公務員贈賄罪の発⽣リスクは、圧倒的に現地が⾼いということになり、現地での防⽌体制の強化なくして、適切なコンプライアンス体制の整備・ 強化とは⾔えません。
まず「現地の強化」の具体的な⽅法として以下のような対応があげられます。

① 現地における外国公務員との接触する機会の洗い出し

外国公務員への贈賄は、許認可の取得・更新、税務調査の際等外国公務員と接触する際に⾏われるものであり、当社の従業者が外国公務員と接触する際に最も贈賄のリスクが⾼まります。リスベース・アプローチの観点からも、まずは現地において外国公務員と接触する⾏為の洗い出しを⾏い、贈賄リスクが⾼まる⾏為を会社として把握し対応を検討する必要があります。その際、「外国公務員贈賄防⽌指針のてびき」(経産省)5⾴記載の「企業が注意すべき場⾯」(※5)が参考になります。

② 現地の実情を踏まえた現地でのルールの策定

贈賄リスクが⾼まる外国公務員と接触する機会の洗い出しが完了したら、現地の実情を踏まえたルールを策定します。ポイントは、⽇本本社のルールを⼀⽅的に押し付けるのではなく、現地の実情を踏まえた実効性のあるルール作りが必要です。「実効性」の確保のためには、現地の従業者が納得(腹落ち)していることが最も重要ですので、ルール策定のプロセスとしては、現地従業者のヒアリングがインタビューを⾏うことも有⽤です。また、策定するルールは、現地の従業者でも理解できるよう、いつ、誰が、何かを、誰に対して、どのように⾏うのか、5W1Hを意識して具体的に記載することが求められます。

③ 参加型の社内研修・教育

現地従業者の知識のアップデートやルールの浸透のためには社内研修・教育は不可⽋です。もっとも、講師が⼀⽅的に話すだけのレクチャー型の研修だけでは、現地の従業者への浸透は⼗分でないことが多いと⾔えます。
私の経験では、現地の従業者も参加できる実際に賄賂を要求された場合のロールプレイングやディスカッション形式での研修がより有効である場合が多いです。

(※4)これまでの摘発事例では、在⽇外国⼤使館職員に対して賄賂を提供した事例もあるが、このような事例はごく⼀部であり、発⽣頻度としては外国の⽅が圧倒的に多いためここでは考慮しない。

(※5)https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/zouwai/pdf/zouwai_shishin_tebiki.pdf

④ 現地赴任前に現地の実情を踏まえた、事前研修

現地に赴任する⽇本⼈に対しては、赴任前の事前研修が有効です。現地に赴き賄賂要求の最前線に突然⾶び込ませ、外国公務員からの不当要求対応を任せることは、あまりに酷と⾔わざるを得ません。
赴任先の実情を踏まえた具体的な事前研修を⾏ったうえで現地に送り出す必要があります。

(2)経営トップによる具体的で分かりやすいメッセージ

外国公務員からの過酷な賄賂要求に対応する現地従業者にとって、⽇本本社の経営トップからのメッセージは、⼼の⽀えとなります。実際に経営トップのメッセージを賄賂要求してきた外国公務員に⽰すことで、賄賂要求を拒絶できたという事例も⽿にします。
是⾮、経営トップが腐敗防⽌に関するメッセージを策定される際には、現地において過酷な賄賂要求に対峙している従業者の武器となるよう、具体的で分かりやすいものとなるよう⼯夫して頂く必要があります。

(3)⽇本本社2線の⽀援

外国公務員贈賄を含む不正⾏為の根本的な原因として、本社からの物理的な距離に加えて⽂化・⾔語の壁を背景にした⽇本本社からの⽀援の脆弱性が挙げられます。いくら現地の強化を⾏い、⽇本本社の経営トップからのメッセージがあったとしても、現地のことは現地任せということであれば、外国公務員贈賄を含む不正⾏為の予防・発⾒体制としては不⼗分です。特に、⽇本本社のリスク管理部⾨(2 線)の担当者は、外国公務
員贈賄予防・発⾒体制の整備・運⽤について、現地⼦会社等を⽀援することが期待されています。
具体的には、上記現地強化策を現地⼦会社等と協働して担当すること、賄賂要求を含む有事の際に現地従業者からの相談窓⼝となり、現地専⾨家の選任や現地担当者のサポート等の⽀援を⾏う必要があります。

まとめ

外国公務員贈賄罪の厳罰化、適⽤範囲の拡⼤及びエンフォースメントの強化の流れの中で、⽇本企業は、外国公務員贈賄防⽌のためのコンプライアンス体制確⽴に本気でとりくんで頂きたいと思います。コンプライアス体制は、⼀度本気で整備を⾏えば、その後のアップデートの負担は著しく軽減されます。
是⾮、本改正を踏まえて、⾃社の外国公務員贈賄罪に関するコンプライアンス体制のアップデートにつなげていただければと思います。