Proact’s View Vol.13「2024年問題」による経営リスクと持続可能なビジネスモデルに向けた議論

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Points of View

「2024年問題」により、物流業者にはビジネス範囲の制約という経営リスクが生じる

荷主企業にも、ロジスティクスの安定性確保や、人権DDの対象にもなるサプライチェーンの労務環境管理といった経営リスクが発生

これらは各社のビジネスモデルに影響する経営課題であり、経営陣は、持続可能なビジネスモデルに向けた議論を始めよう

「2024年問題」とは

トラック等の運転業務に従事する労働者に適用される「自動車運転手の労働時間等の改善のための基準」(以下、「改善基準告示」)が改正され、2024年4月以降は、自動車運転手にも年間労働時間の上限が適用されています。自動車運転手等の労働者には、いわゆる働き方改革として2020年4月に施行された改正労働基準法の適用が猶予されていたところ、今般の改善基準告示の改正は、その猶予が2024年3月をもって終了したことに伴うものです。

運転業務は高い注意力が求められ、危険度も高いため、勤怠管理を厳格化することは重要である一方、特に物流業界での労働力の不足が「2024年問題」として懸念されています。

出典:厚生労働省「労働時間等の改善のための基準学習テキスト トラック運転手 令和6年4月改正改善基準告示版」2頁

「2024年問題」によって生じる経営上のリスク

(1)物流業者に生じるリスク:物流のビジネス範囲の制約

正確で迅速、かつ柔軟な物流は、流通網を遠隔地まで拡大させ、広範囲でのビジネス展開を支えてきました。しかし、今般の労務管理規制の改正によって、自動車運転手の労働時間が制限される結果、物流業者は労働力不足や人件費の増加といった課題に直面し、その結果、配送可能な地理的範囲の制約に繋がることが懸念されます。物流業者にとって、配送範囲の制限は、自社のビジネス領域の制約にも直結するため、人材の確保と合わせて輸配送業務の効率化等が求められています。

(2)荷主企業に生じる2つのリスク

2024年問題は、一見すると物流業界の問題と捉えられがちですが、ユーザーである荷主企業のビジネスにも、以下のような影響が懸念されます。物流はあらゆるビジネスで利用されていますので、これらは、業界や規模に関わらず、大多数の企業にとっての重大な経営リスクに位置づけられます。

① ロジスティクスの安定性強化

トラック等による物流は、企業の円滑なロジスティクスを支える根幹です。その労働力が不足することで、製品の供給遅延やサービスの低下、コスト増加は避けられず、企業の利益に影響を与える要因となります。そのため、多様な物流手段や原材料・部品等の調達体制の見直しなどにより、ロジスティクスの安定性を強化することが経営課題に挙げられます。

② サプライチェーンの労務環境管理

今般の改正は、自動車運転手等の労務環境に関する規制の変更です。そのような個々の労働者の労務管理につき責任を負うのは当然その使用者ですが、それを要望し、利益を得るのは荷主企業です。今では、サプライチェーンを構成する企業の労務環境は、「ビジネスと人権」の1つのテーマとして人権DDの対象となり、サプライチェーンを支える物流を担う自動車運転手の労務環境も当然にそこに含まれることになります。

したがって、荷主企業としても、物流業者の配送キャパシティに上記(1)のような影響が生ることも意識し、依頼先の物流業者が要望に合理的に対応できるのかを確認・検証することが求められます。

「2024年問題」はこれからのビジネスモデルを見出すチャンスでもある

このように、物流業者及びその荷主企業それぞれにリスクが懸念されますが、これらはいずれもビジネスモデルに影響する経営課題であり、それに取り組むのは経営陣の責務です。物流業者の経営陣は、人材の確保とともに、輸送・配送の効率化を進めることが必要です。他方、荷主企業の経営陣は、現行のビジネスモデルについて、ロジスティクスやサプライチェーンを持続可能性の観点で検証することが求められます。

これらは、経営のリスクであるとともに、持続的なビジネス展開に向けて新たなイノベーションやビジネスを構築するチャンスでもあります。実際に2024年問題に対応すべく、物流業者がAIや大型車両の導入などによる効率化に取り組むほか、荷主企業側でも、業種の垣根を超えた共同輸送を始める事例などが表れています。いずれの経営陣にも、「2024年問題」を好機と捉え、持続可能なビジネスモデルを積極的に議論することが期待されます。