【Proact’s View Vol.18】役職員が賄賂を供与してしまったことを知った企業は、何をすべきか?

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Points of View

  • 腐敗防止は、ESGの要素であり、企業として取り組むべき重要な課題
  • 迅速に精度の高い社内調査を行った上で、合意制度の活用を積極的に検討すべき
  • 合意制度活用のメリットは、強制捜査リスクとレピュテーションリスクの最小化
  • 合意制度を適切に利用できなかった場合には株主代表訴訟のリスクもある

東京大学医学系の教授に対する贈賄事案の発覚

 2026年1月24日、共同研究に絡んで日本化粧品協会の代表理事から賄賂を受け取ったとして、東京大学大学院医学系研究科教授が収賄の被疑事実で逮捕されました[i]。同月26日、元特任准教授も収賄の被疑事実で書類送検され、同協会の代表理事も贈賄の被疑事実で書類送検されました[ii]

 なお、日本化粧品協会は、代表理事は自ら警察当局へ出頭し、事実関係を説明するとともに、当局の捜査に全面的に協力していると公表しています[iii]

 役職員が賄賂を供与してしまった場合、役職員は刑事捜査・訴追のリスクに晒され、企業は大きなレピュテーションリスクに晒されます[iv]。適切な対応を行わなければ、こうしたリスクが顕在化して企業価値が大きく毀損されます。

 腐敗防止は、ESGの要素であり、国連グローバル・コンパクト[v]の4分野(人権、労働、環境、腐敗防止)・10原則のうちの一つにもなっており、企業として取り組むべき重要な課題です。企業が腐敗に関与し、かつ、適切な事後対応を行わないとなれば、当該企業に対するステークホルダーからの信用は大きく失墜します。

 そのため、企業としては平時の段階から有事における適切な対応フローを理解しておくことが重要です。

合意制度(日本版司法取引)の概要

 役職員が賄賂を供与してしまったことを覚知した場合には、企業は迅速に社内調査を実施し、対応を検討することになりますが、その際、検察官との合意制度(日本版司法取引)を活用することが、有力な選択肢の一つになります。

 合意制度(刑訴法350条の2)とは、特定の企業関連犯罪や薬物銃器犯罪を対象とし、検察官と被疑者・被告人が、弁護人の同意のもと、被疑者・被告人が「他人の刑事事件」の解明に協力するのと引き換えに、被疑者・被告人(本人)の事件について、「不起訴や処分の軽減等の有利な取り扱い」をすることを合意する制度です。
対象となる犯罪は、詐欺、恐喝、横領、業務上横領、贈収賄、不正競争防止法違反、会社法違反、独占禁止法違反、金融商品取引法違反、税法違反、知的財産関係法令違反などがあげられ、贈収賄もこれに含まれます。 
 合意をするためには、検察官、本人及び弁護人の三者で協議を行う必要があります。協議に応じるかどうかは検察官の裁量であり義務ではありません。
 検察官は、協議の上、合意に応じるかを決めますが、「本人の協力行為によって合意制度の利用に値するだけの重要な証拠が得られる見込み」があるかということや、「本人の供述につき裏付証拠が十分にあるなど積極的に信用性を認めるべき事情がある場合」でなければ合意制度に応じないものとしています。

合意制度の活用のメリット

 合意制度を活用するメリットは、①不起訴処分の見通しが立つこと、②強制捜査リスクの最小化、③レピュテーションリスクの最小化です。

①不起訴処分の見通しが立つこと
 例えば、国立病院医師が、医療機器の採用に関する強い権限を背景に、医療機器メーカーに賄賂を要求し、役員が賄賂の供与を決定して、下位の従業員に指示し賄賂を供与させたという事例では、下位の従業員を「本人」、収賄側の医師ないし役員を「他人」として、合意制度を活用することが考えられます。
 このような場合、企業が、下位の従業員の申告等により、迅速に調査を開始して、調査結果に基づいて捜査機関に申告し、企業や従業員の協力行為により得られる証拠の重大性や不可欠性も認められれば、検察官が合意制度を適用し、従業員を不起訴処分とする可能性は十分にあり得ます。
 また、外国公務員に賄賂を供与した場合など、法人の両罰規定があるものについては、企業が「本人」となり、役職員の事件を「他人」として、合意制度を適用し、企業を不起訴処分とする可能性もあります。合意制度が適用された第1号事案は、三菱日立パワーシステムズの役職員による外国公務員贈賄(不正競争防止法違反)事件ですが、この事件では、企業が本人となって合意が成立し、企業は不起訴となりました。

②強制捜査リスクの最小化
 強制捜査を受けないことは、法律上合意の内容には含まれません。しかし、捜査に積極的に協力すれば、通常は罪証隠滅のおそれは少ないと判断され、検察官も協議を開始した当事者との信頼関係を尊重すると考えられます。そのため、協議中も合意形成後も企業が捜索・差押えを受けたり、従業員が逮捕されたりするリスクは極めて低いといえます。上位の役員についても、企業の決定に従って真摯な捜査協力を行っていれば、逮捕されるリスクは大きくないといえるでしょう。

③レピュテーションリスクの最小化
 合意制度の利用により、不起訴処分の合意が成立すると、企業はレピュテーションの低下を最小限におさえることができます。不起訴処分の合意は、企業の自浄作用発揮や再発防止策について、検察からも信頼を得たと評価できるため、ステークホルダーの信頼回復にもつながります。
 また、合意制度の活用により、マスメディア報道によるレピュテーションリスクのコントロールも可能になります。検察は、合意制度適用事案については、より一層の守秘の徹底を図るため、事件情報がマスメディアなど外部に把握される可能性は低くなります。公判手続の段階では、検察も対外公表をする可能性がありますが、企業は、検察官との交渉の中で処分期日を予想し得ることから、事前に準備を整えた上でマスメディア各社に対し、自浄作用を発揮したことを説明して、適切に対応することが可能となります。

 なお、最終的に検察官との合意に至らなかった場合でも、企業側が自ら捜査機関に合意制度の申出を行い、真摯な捜査協力を行っていれば、強制捜査が行われる可能性は低く、仮に、刑事裁判になったとしても情状として考慮され、刑が軽くなる可能性が高くなります。また、そういった企業の姿勢はステークホルダーからの信頼回復にもつながり、レピュテーションの低下を最小限におさえることができます。

合意制度を活用するにあたってのポイント

(1)迅速に精度の高い社内調査を実施した上で、早期に判断することが重要
 合意制度を利用するためには、事案の全容解明に役立つ証拠を検察官に提出することが必要です。他の関係者が先んじて重要な証拠を検察官に持ち込んでしまえば、当該企業側が合意を持ち掛けても検察官は協議に応じてくれません。
そのため、企業は、役職員が賄賂を供与したことを覚知した場合、迅速に、精度の高い社内調査を行った上、そこで獲得した重要な証拠を検察官に持ち込むかどうかを早期に判断する必要があります。
この判断には検察側の動きを想定した専門的な知見が必要になりますので、危機管理や刑事事件に精通した弁護士にアドバイスを求めることが有用です。

(2)役職員への協力要請
合意制度を活用するためには、役職員の協力が不可欠ですが、例えば、外国公務員に賄賂を供与した場合など、法人の両罰規定があるものについては、企業が「本人」となり、役職員の事件を「他人」として、合意制度を利用することもあり得ます。この場合には、企業のみが対象となり、役職員は合意による恩恵は受けられないため、役職員が企業への協力を拒むことも想定されます。
しかし、事案の全容解明に役立つ証拠は、役職員の協力がなければ収集することはできないところ、企業としては、役職員に調査に協力することのメリットと必要性を説明して、真摯な協力を求めなければなりません。
下位の従業員については、「調査に協力すれば懲戒処分を減免する」という免責約束を交わすことも検討します。ただし、従業員と免責約束を交わす場合には、後に、「懲戒処分の減免につられて安易に不正を認めた」「利益誘導があった」などとして供述の信用性が否定されることがないよう、供述が客観的証拠と整合しているかを特に慎重に確認します。
また、役職員自身も真摯に事案の解明に協力すれば、強制捜査のリスクは低くなり、検察官の起訴裁量権によって不起訴処分になる可能性や刑事裁判になったとしても刑が軽くなる可能性が十分にあります。一方、捜査に協力しなければ、逮捕されたり、刑事裁判において情状が悪くなったりする可能性もあります。そこで、そのようなメリットも説明し、協力を促します。

(3)平時から内部統制システムの整備を行っておくことが重要
 平時から内部統制システムの整備を疎かにしている企業が、いざというときに合意制度を利用しようと思っても、役職員は、企業を信頼してくれず、社内への協力を拒み、役職員自身で、検察官に合意制度を申し出る可能性があるでしょう。また、検察官もそのような企業との合意には応じてくれないでしょう。そのため、企業としては、有事に備え、平時から信頼される内部統制システムの整備に取り組んでおかなければなりません。

合意制度を適切に利用できなかった場合には株主代表訴訟等のリスクがある

 役員が、合意制度を適切に利用できなかったことによって、企業に損害が発生した場合、株主代表訴訟を提起され、役員が責任追及を受ける可能性があります。
このようなリスクを考える上では、住友電気工業がカルテルで課徴金納付命令を受けて課徴金を納付したことに基づいて株主代表訴訟を起こされた事例が参考になります。
 この事例では、原告は、リニエンシーに関する内部統制システムの構築義務違反と、実際にリニエンシーを利用できなかった過失を、役員らの責任原因として株主代表訴訟を提訴し、最終的に、役員らが多額の和解金を払って和解するという結論に至りました。
 判決が下されていないので推測にはなりますが、事実関係の確認が遅れたこと、社内での意思決定が遅れたこと、他社に先んじてリニエンシーを利用できなかったことについて、裁判所が役員らの善管注意義務違反を一定の範囲で認める判断をしたのではないかと思われます。
 企業としては、このようなリスクがあることも念頭におき、平時から内部統制システムの整備を行うとともに、合意制度に関する最低限の知識を習得し、有事の際に迅速かつ適切な対応ができるよう備えることが必要です。


[i] 「東京大学大学院教授を逮捕 大麻成分の研究巡り収賄容疑」(2026年1月24日/日経新聞電子版)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD043040U5A600C2000000/

[ii] 「東大院汚職、元特任准教授も収賄容疑で書類送検 接待190万円相当か」(2026年1月26日/日経新聞電子版)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD252JH0V20C26A1000000/

[iii] 「弊協会代表理事に関する一連の報道および今後の対応について」(2026年2月3日/日本化粧品協会HP)https://japan-ca.jp/media/%e3%81%8a%e7%9f%a5%e3%82%89%e3%81%9b/5293

[iv] 外国公務員への贈賄罪は、法人に対する両罰規定があるが(不正競争防止法22条1項1号、18条1項)、日本公務員に対する贈賄罪(刑法第198条)には、両罰規定はない。

[v] 国連グローバル・コンパクトとは、国連事務総長であったコフィー・アナンが企業に対して提唱した、国連と民間が手を結び、健全なグローバル社会を築くための世界最大のサステナビリティイニシアチブ。日本における2026年2月時点の会員数は673企業・団体(https://www.ungcjn.org/gcnj/about.html)。