【Proact’s View Vol.20】ニデック第三者委報告書で刺さった「社員の肉声」3選
Points of View
- 報告書にちりばめられた社員の肉声
- 「経営陣は狡いと思う」
- 「構造改革を遅らせ事業を駄目にする」
- 「業績目標達成のための助言をすることはない」
報告書にちりばめられた社員の肉声
本年3月3日に公表されたニデック株式会社が設置した第三者委員会の調査報告書(公表版)は、会計不正に手を染めていた多くの社員の肉声がちりばめられており、多くの学びを得ることができます。
ニデック事案を他山の石として、今後の財務報告に係る内部統制の高度化に活かしたいという観点で、社員の肉声の中から特に刺さったものを3つ選びました。今後の実務対応の参考になれば幸いです。
「経営陣は狡(ずる)いと思う」
調査報告書89頁から抜粋します。
| 当委員会の調査の過程では、上記メールにとどまらず、永守氏を含めたニデックの経営幹部が、「コンプライアンス遵守」、「王道経営」、「王道経理」を殊更に強調するメールを多々目にしたが、これらの言葉は、国内グループ会社の幹部からは、必ずしも額面どおりには受け止められていない。 国内グループ会社幹部の中には、当委員会のヒアリングにおいて、「永守氏ら経営陣は、『王道経理』、『コンプライアンス遵守』と繰り返し述べているが、同時に、不正を引き起こすような非常識な業績目標を設定し、それを絶対に達成するよう強いプレッシャーをかける。『自分は正しいことをしろと指示したが、不正をしたのはお前たちである。』と言っているのに等しく、『狡い』と思う。」などと述べる者もいる。 |
業績重視・コンプライアンス軽視という統制環境の下で、現場の社員にとって「コンプライアンス」という言葉がどのように映っているかをリアルに表している言葉です。
現場の社員にとっては、経営陣が発する「コンプライアンス」という言葉は、コンプライアンス違反が発覚したときに、経営陣が自己保身を図りつつ社員に責任転嫁するための狡猾な「アリバイ作り」だと映っています。あるいは、組織防衛のために、コンプライアンス違反に手を染めた社員を会社から切り捨てるための「刃物」のように映っていただろうと思います。
現場の社員は、経営陣が「コンプライアンス」という言葉を、タテマエ(=自分を守る)で言っているのか、それともホンネ(=社員を守る)で言っているのかを、経営陣の一挙手一投足から敏感に嗅ぎとり、これに沿うように行動します。
業績重視・コンプライアンス軽視という統制環境の下では、どれだけコンプライアンス部門への報告や内部通報を社員に義務づけたとしても、現場の社員は自分を守るために、コンプライアンス違反を絶対にエスカレーションしません。その結果、コンプライアンス違反が現場で長期間継続され、発覚したときには会社に計り知れないダメージを与えます。
つまり、経営陣のタテマエ論が、現場の社員の不信感を呼び、リスク情報のエスカレーションを阻害し、「発見統制」の失敗を招くのです。
「構造改革を遅らせ事業を駄目にする」
調査報告書167頁から抜粋します。
| 現状の■■の処理は会計的に何とか説明できる範疇(グレー)であるものと心に言い聞かせ対応をしてきましたが、自分の本当の心は将来回収が出来ず翌期以降に影響が出るものは黒(ブラック)で、構造改革を遅らせ、事業(会社)を駄目にするものというのが本当の気持ちです。 |
「負の遺産」を抱えた事業が本来行うべきだったのは、現場の実力を直視し、減損計上などの痛みを伴いつつも、将来の成長と利益を生み出そうとする真の「構造改革」でした。
しかし、永守氏は、現場の実力から目を背け、その痛みを現場と一緒に引き受けることを避け、株価を意識した過度な業績目標を達成するための数字合わせを現場に求め続けました。
そもそも利益を生み出せないから「負の遺産」を抱えることになった事業について、セルフファンディング(自分で稼ぎ出した利益を原資に「負の遺産」を償却すること)を求めることなど、現場にとっては理不尽な「無理ゲー」にほかなりません。
こうして真の構造改革を遅らせたことで、事業はさらに傷んで深手を負い、減損等の財務ダメージを拡げることになったのです。
「業績目標達成のための助言をすることはない」
調査報告書91頁から抜粋します。
| 国内グループ会社の幹部は、当委員会のヒアリングにおいて、「業績目標を達成できる見込みが立たないと、執行役員から、『お前は首だ』、『お前はS級戦犯だ』、『お前は犯罪者だ』などと罵倒されていた。」、「業績フォロー会議の場で、執行役員が業績目標達成のための具体的な助言をすることはない。単に目標を達成するよう強く求めるだけである。業績フォロー会議は、業績目標を達成できない子会社に対する『罰』だと考えている。」などと述べている。 |
業績目標が達成できる見込みがない状況であれば、会議では、参加者全員が知恵を出し合って、その原因を丹念に分析し、市場や競合の分析も加味して、どのようなリカバリー策を講じるかを議論して全員で合意し、事業を前に進めるのが本来です。これが生産性のある会議です。
しかし、ニデックでは、担当者を罵倒し吊し上げることはあっても、業績目標達成のための具体的な「助言」をすることはありませんでした。調査報告書204頁には、「目標達成のためのニデック本社との会議は週に1回あり、ひどいときは、8時、昼、15時、23時と一日4回。1回1時間はあった」とも書かれています。
このような会議に生産性はありません。そして、このような企業価値を生まない後ろ向きな作業に社員が忙殺され、企業価値を生み出す前向きな業務に集中できない状況こそ、最大の企業価値の毀損となります。また、こうしたパワハラ的な会議を繰り返して社員のメンタルを削り、休職者や退職者を出すことは、貴重な人的資本の毀損ともなります。
ある上場会社の会計不正事案の調査報告書には、次のような記述があります([ ]は筆者注)。
「企業活動は、当該企業の役職員一人ひとりの業務の集積であり、ゆえに、従業員は、企業価値の向上に資することとなる貴重な経営資源である。しかしながら、[従業員]は、経営陣の指示に基づき、企業価値の向上に何ら貢献しない『作業』を『業務』として行っていたと言える。この意味において、[経営陣]は、自己保身的な動機に基づき、対象会社における貴重な人的資源の有効かつ効率的な費消を阻害し、企業価値を毀損したと指摘できる。」
東芝の会計不正における「チャレンジ」にも同様の弊害が見られましたが、トップダウンの業績目標を押し付けるだけの会議は、生産性がないばかりか、企業価値と人的資本を毀損する悪手であることを、理解する必要があります。
