Proact’s View Vol.5 取締役会の多様性確保によってガバナンスが強化されるのか?
Points of View
- 外形のみ多様性を確保しただけでは、ガバナンスを形骸化させてしまう
- 多様性を確保した上で、監督機能が果たされるような⼯夫が必要
- スキル・マトリックスを活⽤し、取締役会が備えるべきスキルの特定・現在のスキル状況の客観的な把握が重要
昨今の取締役会に多様性を求める傾向
昨今、上場企業において、取締役会が多様性を求められる傾向にあります。多様性を求められる理由は、様々な経験・知⾒を有する取締役会メンバーが多⾓的な視点から意⾒を述べることで、議論が深まり、最適な意思決定を⾏うことができる点にあります。
多様性の代表例としては「性別」や「国籍」が挙げられます。実際、コーポレートガバナンス・コード(CG コード)の原則 4-11 において、「ジェンダーや国際性、職歴、年齢の⾯を含む多様性と規模を両⽴される形で構成されるべき」と述べられています。また、議決権⾏使助⾔会社や機関投資家の議決権⾏使基準においては、取締役会に⼥性取締役が⼀⼈もいない場合に、経営トップである取締役に対して反対を推奨する基準等が導⼊される傾向にあります。世界的にも、EU において域内の上場企業に⼀定⽐率の⼥性を取締役に登⽤するよう義務付ける⽅向で法整備が進んでいます。
それでは、⼥性取締役や外国籍取締役を登⽤することが取締役会の多様性確保に繋がり、取締役会の監督機能が⼗分に果たされ、ひいてはガバナンス強化に結び付くのでしょうか。
多様性を求めることによって陥る罠
ここで、東芝が 2021 年 11 ⽉ 12 ⽇付で開⽰したガバナンス強化委員会の調査報告書 52ページを⾒ると、以下のような指摘があります。
「特に、取締役会の構成における多様性を象徴する外国籍取締役との間において、⼗分な議論がされず、執⾏役とその思考において親和性の⾼い⽇本国籍取締役が取締役会の議論の中⼼となりがちであったことが窺われ、多様な意⾒が業務執⾏の監督に⽣かされることがなかったものとみることができるのではなかろうか。」
東芝は取締役 12 名のうち 10 名が社外取締役であり、10 名の社外取締役のうち 4 名が外国籍であったことから、外形的には取締役会の多様性・独⽴性が確保され、ガバナンスが強化された企業と⾒られていました。しかし、実態としては、執⾏役と思考の親和性の⾼い⽇本国籍取締役が中⼼に議論を進め、外国籍取締役は⼗分に監督機能を果たすことができず、取締役会の機能は形骸化していました。また、仮に外国籍取締役が⼗分に発⾔できるような状態にあったとしても、⽇本との⽂化の違いや⽇本企業に対する理解の不⾜を理由に、⽇本国籍取締役が外国籍取締役の意⾒を真摯に受け⼊れないような環境が⽣まれてしまう可能性もあります。
あるいは、機関投資家の要望を満たすためだけに、単に⼥性というだけで⾃社の求めるスキルを備えていない⼥性取締役を採⽤すれば、単なる数合わせにしかならず取締役会の機能発揮にはむしろマイナスになってしまうでしょう。
このように、「CG コードをコンプライするため」「機関投資家の賛成票を得るため」「上場企業のトレンドに合わせるため」に実態の伴わない多様化を推進することに意味はなく、少数の取締役の独断を許したり、適切な意思決定をできないということになりかねません。
多様性を備えた取締役会が監督機能を果たすために
多様性を確保するための体制を整えただけで満⾜するのではなく、社外取締役の監督機能が⼗分に機能するような体制が整備されているのか、⼗分に留意することが必要です。例えば外国籍取締役を登⽤した場合には、⽇本国籍の社外取締役と同様に事前説明を⾏うだけでなく、取締役会で⼗分にコミュニケーションが取れるよう必要に応じて通訳を⽤いること等も考えられます。⽂化や思考の違いが⽣じることを前提として、違いを乗り越えてコンセンサスを形成できるよう丁寧に説明し、理解を促進することが必要です。また、多様性の観点から⼥性取締役や外国籍取締役を登⽤する場合に、単に「⼥性」「外国籍」であるだけで登⽤するのではなく、スキル・マトリックス(※)を活⽤し、⾃社の中⻑期の経営戦略を踏まえて、⾃社の取締役会が標準装備すべきスキルを特定し、何のスキルが⾜りていて、何のスキルが⾜りていないのかを客観的に把握した上で、その取締役候補者が備えるべき経験・知⾒を保有していて、取締役会の監督機能を強化してくれるのかについて、指名(諮問)委員会等も活⽤して慎重に検討する必要があります。(※)松葉優⼦・岩渕恵理「社外取締役の選任、報酬⽔準、期待される役割とは」
BUSINESS LAWYERS,https://www.businesslawyers.jp/articles/801 の 3-2 参照。