【Proact’s View Vol.22】2026年度、生命保険各社は「安心」へのこだわりで信頼を取り戻せ
Points of View
- 生保各社での不祥事は、個々の職員、個々の会社だけの問題ではなく、生保業界の構造的な問題
- 被害対応では、保険会社の使命である「安心の提供」に遡り、法的責任に限定せず、経営責任として判断すべき
- 業界の「当たり前」がリスク要因へと転化することも、今こそビジネスモデルそのものの見直しを
生保会社での止まらない不祥事は生保業界の危機
生命保険会社で、営業員による契約者らとの金銭問題や、出向先の代理店等での情報の不正取得といった不祥事が発生し、連日のように報道されています。特に金銭問題では、契約者らに対して架空の保険商品や投資話を持ち掛け、金銭を詐取するという欺罔的な手口により、億円単位の被害が発生したとも報告されています。
そして、これらの事例は特定の1社にとどまらず、複数の生命保険会社で同様に発生しています。生命保険会社では、営業員がアポイントを取って契約者らを訪問し、家計や収入・財産等の情報も得ながら、保険商品を提案するという営業スタイルが浸透しています。今回の手口は、この営業スタイルを悪用したものであり、個々の職員や個々の会社の問題にとどまらず、業界全体に共通する構造的な問題と捉えざるを得ません。
かつて保険会社各社は、保険金不払いという契約者への背信的な行為により、業界全体の信用を大きく損ないました。今回の問題も、保険会社への信用を悪用して契約者に金銭を支払わせたり、代理店等を信用して契約者が提供した個人情報を不正に取得するという点で、保険金不払いに匹敵する契約者への背信性を有しています。
生命保険の役割は「安心」を商品として提供することにあります[i]。その提供主体である生命保険会社自身が信用を逆手に取る行為に及べば、顧客との信頼関係は根底から崩れます。これは生命保険ビジネスそのものの存続に直結する経営リスクであり、業界を挙げて真剣に取り組むべき重要課題です。
[i] 一般社団法人生命保険協会「人生100年時代における生命保険業界の枠割りについて」(https://www.seiho.or.jp/info/news/2020/pdf/20200417_2.pdf)
被害への向き合い方は十分か?
今般、営業員による金銭詐取が発覚したプルデンシャル生命では、契約者らが受けた被害に対して十分な賠償がなされてこなかったことが明らかとなっています。これは、当該行為が保険営業という「事業」として行われたものではないとして、民法上の使用者責任を負わないという理解に基づく対応であった可能性があります。しかし、その後プルデンシャル生命では、社員が在職中に行った金銭に関する不適切行為については、全額補償を行うことを決定するに至ったとのことです。
当然、会社としても理由のない補償を行った場合、役員の善管注意義務違反を問われかねないため、法的責任の範囲を踏まえる必要があります。しかし、金銭詐取が構造的な問題であることや、生命保険会社が「安心の提供」を使命としている以上、その被害への対応は、単なる法的責任の有無にとどまらず、より高い経営責任という視座からの経営判断が求められます。この経営判断は非常に高度であり、社外役員や社外の専門家の意見も組み入れながら、慎重に検討する必要がありますが、究極的には、「生命保険会社が使命として提供すべき価値は何か」「契約者は生命保険会社に何を期待しているのか」といった根本に遡って判断すべき場面です。
これまでのビジネスモデルにリスク要因はないか?
上記のような事例は近時になって報道されていますが、実際には生命保険各社において以前から発生していたものです。各社はその都度、類似事案の有無を洗い出し、営業現場でのキャッシュレス化など業務フローの見直しに取り組んできました。それにもかかわらず、根絶には至らずに、再発を繰り返してきました。このことからすれば、不正が起き、見過ごされ、是正されない「構造」が組織内に存在していたと評価せざるを得ません。
そもそも、現在の生命保険ビジネスそのものにリスク要因はないのか、改めて検証する必要があります。生命保険業界では、営業員(会社によってはその多くが女性)が各家庭や職場を訪問し、保険商品を提案し、新規契約の獲得に対してインセンティブ報酬を支払うという営業スタイルが長く続いてきました。しかし、近年は、プライバシー保護やセキュリティ強化等の影響もあって、対面での訪問機会は減る一方、いわゆる店頭やインターネットで気軽に加入できる形態も増えています。
こうした状況で、従前のようなビジネスモデルには、例えば以下のようなリスクが内在し、時代に適合できていないとも考えられます。
●1対1での営業活動が、特定の営業員への依存や過度な信用を生み、金銭詐取の土壌となっていなかったか。
●家庭や職場という密室での営業活動が、営業員の説明や勧誘方法に対する統制を困難にしていなかったか。
●女性の営業員が多いなかで、密室での1対1の営業活動を前提とすることが、カスタマーハラスメントや性被害のリスクを高めていないか。そもそも、なぜ営業員に女性が多いのか。
●代理店等への出向の目的について、契約の乗換えや見込み客の情報取得を含むといった誤った理解が浸透し、組織内で受け継がれていなかったか。
これらのリスクに対して、生命保険各社は抜本的な対策を講じてきたといえるでしょうか。どこかで、「多くの営業員を抱える以上、一定の不正はやむを得ない」といった諦め、「生命保険の営業は女性に適した仕事である」「社員の不法行為により会社が負うべき使用者責任は限定的である」等といった固定観念に依拠してはいなかったでしょうか。
これらはいずれも、生命保険業界にとっては「当たり前」であったかもしれません。しかし、「当たり前」が時代の変化の中でリスク要因へと転化している可能性もあります。
保険金不払いによる信頼失墜から20年余り、生命保険業界は顧客本位に立ち返って再発防止に取り組んできました。そのために各社の従業員一人ひとりが重ねた努力は相当なものであったはずです。それにもかかわらず、いつしか不払いの問題が風化され、「営業」「数字」が優先される企業風土に逆戻りしてしまっていたのではないでしょうか。
経営陣は、真剣にこれからのビジネスモデルを考えよ
これまで長く続いてきたビジネスモデルがいつまでも通用するわけではありません。時代の潮流や経済環境、法規制等といった外的要因に応じて、ビジネスモデルも変革していく必要があります。生命保険のビジネスモデルも、今まさに「令和」に適合する形へと見直すべき局面にあります。
これは、容易に答えが見つかるような課題ではありません。だからこそ、出発点として確認すべきは、生命保険会社にとって、契約者からの「信頼」こそが欠かせない経営資本であるということです。その信頼が大きく揺らいでいる今、求められているのは表面的な対症療法ではなく、ビジネスモデルの根本に踏み込む経営の意思です。
生命保険会社の究極の使命は「安心の提供」です。この安心を得るために、主担当の他に、フォローを行う副担当を選任するなどして、複数の目が入る営業・管理体制への移行が推奨されます。複数が関与することで、契約者らとのコミュニケーションが1対1の密室から、透明化された環境となることに加えて、過度な競争意識の抑制にも繋がります。
これに伴って、これまでのインセンティブ報酬体系も大きく見直す必要も生じます。例えば、営業員の報酬要素にも、新規契約の獲得だけでなく、営業の管理業務(他の営業員が担当する顧客へのフォロー等)を追加することも考えられるでしょう。これまで営業成績によって大きく報酬が変動することが生保営業という職業の1つの魅力であった点は否定できません。その魅力にも影響が生じうる見直しとなりますが、今踏み込まなければ、生保業界の危機は乗り越えられません。
2026年度を、「不祥事対応の年」に終わらせるのか、「信頼を再構築する年」とするのか。その鍵を握っているのは、現場ではなく、経営陣の覚悟です。
