【Proact’s View Vol.23】万一の事態への備えはできていますか?「緊急時サクセッションプラン」について議論を始めよう。

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Points of View

  • 後継者育成計画(サクセッションプラン)に関するCGコードのコンプライ率は増加している
  • 一方で、経営陣に何かあった場合のことまで想定できているか
  • 「経営の空白」を作らないために、緊急時サクセッションプランを策定しておこう
  • サクセッションプランの策定・運用には社外取締役の積極的な関与が必要不可欠

昨今の動向

 貴社では、経営陣の後継者育成計画(サクセッションプラン)の策定・運用について議論を進めていますか?
以前は後回しにしていた会社が多い印象でしたが、昨今では対応を進めている企業も多く、例えば、取締役会の後継者計画策定・運用への主体的な関与を求めるCGコードの補充原則4-1③について、プライム・スタンダード上場会社のコンプライ率も70.6%と増加してきています[i]
 「後継者育成計画」と聞くとどのようなイメージがあるでしょうか。例えば、数年~十年以上のスパンをおいて会社を背負っていけるような次世代の取締役候補に対し、経営を担う人材として必要な素養・知識を身に着けていってもらうイメージではないでしょうか。
 そのイメージは正しいです。一方で、例えばある日突然経営の中心人物が欠けてしまった場合、どのようにして後任の方の指名を進めていくか、「経営の空白」を作らないように進めるためのプロセスについては想定していますでしょうか。「職務執行順位に従って対応する」という会社や「明確に議論しているわけではないが、社長や常勤役員の中ではなんとなく次はこの人だろうという想定がある」という会社もあるかもしれません。その状況で、果たして備えとして十分であると言い切れるでしょうか。


[i] 株式会社東京証券取引所「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2025(データ編)」,
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jb0-att/um3qrc000001noil.pdf(参照日:2026年5月13日)

「緊急時サクセッションプラン」の必要性を示す事例

 2022年にENEOSホールディングスにおいて、当時の代表取締役会長が女性に対する不適切な言動で辞任するという事態が生じました。さらにその翌年に、代表取締役社長・代表取締役副社長が同席する懇親会の場で女性に対する不適切行為があり、辞任勧告に基づき両名が取締役を辞任するという事態が発生しました。ここで辞任した代表取締役副社長は、前年の代表取締役会長辞任に伴う人事異動で「代表取締役」に就任しているところ、結果的に「代表取締役」として不適格であったと言わざるを得ません。とすれば、翻って2022年の会長辞任後に行われた指名プロセスが果たして適切であったのか、疑問が残ります。

 「代表者の不正が発覚する」という事態はなかなか想定しにくいかもしれませんが、代表者が健康を害するという事態は、年齢にかかわらず、いつ何時起きてもおかしくはありません。このような場合に、「経営の空白」を作らないための準備ができている企業はどの程度存在するでしょうか。

緊急時サクセッションプランに関する好事例

 2024年12月、味の素株式会社において、CEOが体調を崩すという事態が生じました。その際、従前より味の素において策定していた「緊急時サクセッションプラン」を発動させ、CEOの体調不良発覚時から1ヶ月半後に新社長が選任されることでこのピンチを乗り切ったという事例がありました。
 味の素株式会社のASVレポート(統合報告書)[ii]によれば、「現CEOに事故・病気等があった場合、代表執行役副社長等が当面の業務を代行し、その間に、あらかじめ絞り込んだ複数の候補者から、次期CEO候補者を選定する」こととしており、2024年12月の際にはこの「緊急時サクセッションプラン」が発動し、短期間に候補者全員との面談を実施して新CEOを選定したとのことです。これ以後も、味の素株式会社においては、「経営の空白を作らない」という考えの下、新社長は就任後になるべく早くCEOのサクセッションプラン案を指名委員会に提示し、これをベースに指名委員会にて後継者候補者リストの人財について毎年見直して育成・評価を行っているようです。
 もう1つ参考になる事例として、2022年11月、株式会社資生堂において、2023年1月からの新体制として、新たな代表取締役CEOを選任し、前社長CEOが2年間並走することが発表されました。前社長CEOである魚住雅彦氏の「私の履歴書」[]によれば、魚谷氏は自身の内規上の定年が迫っていることを把握した後に約3年かけてサクセッションプランを実行し、後任の藤原憲太郎氏を決定しました。上記発表直後の2023年3月に魚住氏は軽度の脳梗塞により入院してしまい、一時的な外出許可をもらいなんとか株主総会の議長を全うし、社長交代を行ったとのことです。この事例はタイミングよく次期社長のサクセッションプランが進んでいたため、結果的に「経営の空白」を生み出さずにソフトランディングできた好事例だったといえます。
 経営陣の年齢層が比較的若い場合やまだ就任したばかりの場合などには、十年近くポジションが変わらないことを想定し、「緊急時」を想定し難いかもしれません。しかし、上記の味の素株式会社や株式会社資生堂の事例のように、「緊急時」はいつ何時起きるか分かりません。その時に焦って不適切な指名プロセスを辿ることのないように、必要な備えを平時から議論し始めてみてはいかがでしょうか。


[ii] 味の素株式会社「ASVレポート(統合報告書)2025『コーポレートガバナンス』」,
https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/sustainability/pdf/2025/ar2025jp_076-091.pdf(参照日:2026年5月13日)
[] 魚谷雅彦「魚谷雅彦 私の履歴書(29)社長交代 資生堂前会長CEO」『日本経済新聞電子版』2025年7月30日2:00,
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD091A00Z00C25A7000000/(参照日:2026年5月13日)

緊急時サクセッションプランの具体的な進め方

 「通常時」「緊急時」と名称で区別はしているものの、緊急時と通常時で行うべきことに大きく変わりはありません。まずは指名方針(=求める経営陣像)を策定することから始まりますが、これは通常時サクセッションプランを進めるにあたって既に策定しているものと思われますし、候補者リストを作成することや、指名時に各候補者に対しヒアリングを実施していきながら候補者を絞り込んでいく流れも同じです。

 異なる点としては、候補者リストの中身です。通常時サクセッションプランは、今後経営層たり得るために数年~十数年かけて育成していくことを想定していると思いますが、緊急時サクセッションプランは育成期間を確保することができませんので、現状の素養で候補者たり得るものをリストアップすることになります。

 その上で、毎年候補者リストを更新していきます。通常時のサクセッションプラン候補者が、ある程度育成が完了したことをもって緊急時サクセッションプランの候補者リストに追加されることもあるかもしれません。

 そして、万一CEO等に緊急事態が発生した場合には、当面の間職務執行を代行する者を置いた上で、指名報酬委員会であらかじめ取りまとめておいた候補者リストから、次期候補者を選定していきます。実際に選定する際には、指名方針に合致しているかどうかが重要なポイントとなりますし、会社全体としてある程度納得感の得られる人選であることも重要ですので、その観点からもヒアリングを行うことが望ましいでしょう。

社外取締役の関与が重要

 ここまで「緊急時サクセッションプラン」について議論を進めていく話をさせていただきましたが、そもそもサクセッションプランは経営陣の交代を前提とした話のため、社長直下にある社内のメンバーからは声を上げにくいでしょう。

 2026年4月10日に金融庁・株式会社東京証券取引所から公表されたコーポレートガバナンス・コード改訂案によれば、原則4-8における解釈指針において、「独立社外取締役は、CEOをはじめとする経営陣の選解任(後継者計画を含む)・報酬について、経営陣の恣意性を排除し、中長期的な企業価値の向上の観点から適切な内容となるよう、指名委員会・報酬委員会において主体的に機能発揮することを含め、役割・責務を果たすことが求められる。」との記載があります。

 昨今では多くの会社において独立社外取締役が委員に含まれる形で指名・報酬諮問委員会を設置しておりますので、まずは独立社外取締役が委員会の場に議案としてあげ、議論を始めていただくことが重要だと考えます。

「緊急時サクセッションプラン」が間に合わなかったら?

 とはいえ、「緊急時サクセッションプラン」を策定するにも時間がかかるでしょう。もし進めている間に万一の事態が発生した場合には、指名・報酬諮問委員会が中心となって、急ピッチで指名方針に沿った候補者のリストアップと選抜を進めることとなりますが、知見・経験がないまま手探りで進めることを不安に感じられることもあるかもしれません。プロアクトでは、企業様から任意の指名・報酬委員会の運用サポート(https://proactlaw.jp/our-practices/services/executive_nominate_rewards_support/)を承っております。緊急時にも迅速なサポートが可能ですので、お気軽にお問合せください。