【Proact’s View Vol.24】監査役等『専属の顧問弁護士』

PDFダウンロードはこちら

Points of View

  • 監査役等に「専属の顧問弁護士」が必要な理由――執行と監督の分離という構造問題
  • 「執行と監督の分離」を実質化する――弁護士資格の社外監査役だけでは足りない理由
  • 平時の「継続的伴走」こそが有事の判断精度を高める

はじめに――監査役等と法務の「距離」という問題

 「気になることがあっても、法務部門に相談してよいものか迷う。顧問弁護士に聞こうにも、執行側を経由しなければならない。」

 監査役等(監査等委員、監査委員を含めて本稿では「監査役等」とする)の方々と話すと、こうした悩みを繰り返し耳にします。

 コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の2018年改訂では、「監査役には財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべき」(原則4-11)と明記されました。しかしながら、公益社団法人日本監査役協会の調査[i]によれば、社外監査役に占める弁護士の割合は約20%にとどまります。会社法における監査役等が会計の専門家である会計監査人と緊密に連携する仕組みと比べると、法務の専門家へのアクセスは著しく脆弱です。この脆弱性を放置することが、監査機能の実効性に直結するリスクであることを、以下で整理します。


[i] 公益社団法人日本監査役協会「第26回定時株主総会後の監査役等の体制に関する年次調査 集計結果」16頁

1.「執行と監督の分離」が生む法務アクセスの壁

 法務は、法務機能が執行側の組織に帰属していますので、監査役等が法的論点について疑問を持ったとき、内容によっては、法務部門に質問すると「一応顧問弁護士に確認してみます」などとワンクッション置かれることが多いです。しかし、通常の顧問弁護士は執行側をクライアントとして助言する立場ですので、監査役等が「取締役の業務執行には善管注意義務違反があるのではないか」と疑念を持つ局面で、その執行側の弁護士に意見を求めても、監督側の立場に立った助言を得ることは難しく、「執行と監督の分離」から生まれる構造的な矛盾は明らかです。

 この問題は、日常的な相談においても現れます。「執行側に何でも頼ってきますね」と受け止められるような状態が続けば、監査役等の実質的な独立性は損なわれていきます。そのため、監査役等が法的な観点から経営を監視するためには、執行側から切り離された独自の法務アクセスが必要です。

 会社法388条1項は、監査役がその職務執行のために必要とする費用(監査費用)を会社が負担する義務を定めており、監査役等による専属顧問弁護士の起用を執行側が拒むことは法的に許されません。法的根拠は整っており、問題は実際に踏み出すかどうかです。

2.弁護士資格のある社外監査役がいれば足りるという誤解

 監査役等の専属顧問弁護士の必要性に対しては、「すでに弁護士資格のある社外監査役が選任されている」という反論が出てきます。しかしこの発想には、重大な落とし穴があります。

 監査役等は、取締役の業務執行を監督する立場です。契約書のリーガルチェックや法的適法性の判断は執行側の法務部門の業務執行であり、監査役等はそのプロセスや結果を監査するのが職責です。弁護士資格のある社外監査役が個別案件の「アウト・セーフ」判断をすることは、本来の監査役等の役割ではありません。それは「執行と監督の分離」に反します。

 それにもかかわらず実務では、執行側が弁護士資格のある社外監査役を事実上の顧問弁護士のように扱い、「社外監査役の弁護士からお墨付きをもらった」として押し切ろうとするケースが見られます。これは監査役等の執行からの独立性を骨抜きにする悪しき慣行であり、当該社外監査役自身もきっぱりと断らなければなりません。

 また、弁護士資格があっても専門分野は様々です。コーポレートガバナンス、不正調査、MBO・第三者割当増資、株主代表訴訟対応といった監査役等固有の法的課題に精通しているとは限りません。監査役等として重大な判断を迫られる局面では、その分野の経験と知見を持つ専門家への独立したアクセスが不可欠です。

3.平時の「継続的伴走」が有事の判断精度を決める

 「何か困ったときに専門家に相談すれば足りる。普段から起用しておくのは無駄ではないか。」これもよく聞く意見です。しかし、この考え方には重要な視点が抜けています。

 法的リスクへの対応は、会社固有の事情に深く根ざしています。社長の意思決定スタイル、取締役間のパワーバランス、過去の不祥事の経緯、現在抱えている経営課題、中期経営計画との整合性、監査役等との関係性――こうした文脈を把握していてこそ、「この指摘事項を執行側の誰にインプットすれば会社全体がうまく回るか」「この案件の監査役等としての対応方針はどうあるべきか」という実践的な助言が可能になります。スポット相談では、いくら法的知識があってもこの文脈は即座には補えません。日頃からの関係があってこそ、有事に迅速かつ的確な対応が可能になります。

 継続的な関与は、相談の「質」も変えます。最初は規程の整備状況といったテクニカルな相談から始まっても、関係が深まるにつれて「取締役会の運営をどう改善するか」「グループ内部統制の在り方をどう見直すか」「不正リスクの高い事業部門への監査アプローチをどう設計するか」といった、より本質的なガバナンス課題に向き合えるようになります。監査役等の「地力」が上がるにつれ、顧問弁護士への相談の質も上がるという好循環が生まれます。

 執行側は顧問弁護士を上手に活用しながら法務・コンプライアンスのレベルを上げています。監査側もそれに応じてレベルを上げていかなければ、対等かつ実効的な「執行と監督の分離」は実現しません。

4.外観的独立性が機関投資家・ESG評価を動かす

 近年、機関投資家やアクティビストによる「監査の実効性」へのエンゲージメントが急速に増加しています。問われるのは「社外監査役が形式的に存在するか」ではなく、「監査役等が実質的に執行部門から独立した視点で有効に機能しているか」という実態です。

 監査役等が専属の顧問弁護士を持ち、その旨をコーポレートガバナンス報告書に明記することは、外観的独立性の証明として強力なシグナルになります。有価証券報告書でも、すでに複数の会社の監査役等が日常的に相談できる法務専門家を起用していることを開示しており、今後のトレンドとなっていくことが予想されます。横河電機・京王電鉄・ヤフーなどはその先行事例です[ⅱ]

 監査役等の実効性評価への取組みが広がる中、その評価の客観性・透明性を高める意味でも、外部の独立した専門家の視点は重要です。自己評価だけでは、自社の監査役等が「他社と比べてどのレベルにあるか」という相場観は得られません。顧問弁護士との継続的な対話を通じて、他社の好事例や業界動向を踏まえた改善が可能になります。

 監査役等が独自に顧問弁護士を活用することでより機能し、ガバナンスが実質化して企業価値が向上することは、投資家にとっても目に見える効果です。「監査役等としての顧問弁護士起用」は、守りのコストではなく、コーポレートガバナンスの質を高める積極的な投資として位置付けられるものです。


[ⅱ] 日本経済新聞「監査役会、自前で法律顧問 存在感高める動き、徐々に」(2016年4月4日)という記事参照

おわりに――監査役等専属の法務専門家を

 監査役等が全ての法的課題を自力で解決する必要はありません。法務の分野においても、日頃から何でも相談できる専属の存在がいれば、監査役等としての安心感と判断の精度は格段に高まります。

 「監査役等は、常に本当にこの対応でよいのかについて悩みながら業務を進めておられる方が多く、またその悩みを社内で誰に相談すべきかを迷うことが多い。」――これは多くの監査役等の方に共通する実感だと思います。その悩みに対して、執行側から独立した立場でいつでも相談に乗れる専門家の存在は、監査役等の職責を全うするための重要なインフラです。

 当事務所では、多数の社外役員経験者や不正調査案件対応実績を有し、監査役等の皆様の専属リーガルアドバイザーとして、独立した法的助言から実践的なガバナンス改善支援まで、幅広くお手伝いしている実績があります。まずはお気軽にご相談ください。