【Proact’s View Vol.25】監変容する反社リスクと企業防衛―「トクリュウ」時代に従業員の私生活から忍び寄るリスク―
Points of View
- 暴力団からトクリュウへー警察も危機感を強める
- 警戒すべきは資金獲得犯罪そのものだけではない
- 「従業員を起点とするリスク」は企業防衛で見過ごされがちな盲点
- 企業は従業員の私生活を入口とするリスクにも備えよ
暴力団からトクリュウへー警察も危機感を強める
「反社チェックのルーティンにはもう慣れているから大丈夫」、そう考えている企業ほど、いま注意が必要かもしれません。反社会的勢力をめぐる情勢は、近時大きく変容しています。
暴力団構成員の数は、2024年末に初めて1万人を割り込んだ後も、なお減少が続いている一方で、近年、新たな脅威である匿名・流動型犯罪グループ、いわゆる「トクリュウ」が台頭しています。看板を掲げて組事務所を構え、擬制的血縁関係によって構成員同士が強く結びつき、代紋によって組織を誇示していた暴力団と異なり、トクリュウはSNSを通じて匿名的に結びついて離合集散を繰り返す「見えない相手」といえます。
トクリュウは多様な資金獲得犯罪を敢行しますが、その最大の資金源とみられているのが詐欺です。被害額が高止まりする特殊詐欺に加え、近年はSNSを通じて投資指南や恋愛感情を装って金銭を振り込ませる「SNS型投資・ロマンス詐欺」(投ロマ)の被害も急増しています。
警察庁の統計によれば、2025年には特殊詐欺の被害額は約1,414億円とされ、「投ロマ」の被害額も約1,827億円に達したとのことです。両者を合わせると被害総額は約3,200億円を超え、1日あたり約9億円もの被害が発生している計算になります(それもこれは警察が把握した数字にすぎず、その背後には相当な暗数が控えているとみられます。)。
トクリュウの資金源は詐欺にとどまらず、闇バイトで実行役を集めた組織的な強盗・窃盗、違法オンラインカジノ、悪質ホストクラブ・違法な性風俗・スカウトが連携して若い女性を借金漬けにする手口、フィッシングによるネットバンキングの不正送金など、多岐にわたります。これらの一部では暴力団とも手を組んで資金を獲得しています。
こうした情勢を受け、警察も近年、トクリュウに対する危機感を強めています。2024年12月24日、全国の都道府県警察のトクリュウ対策担当幹部を集めて開かれた司令塔会議において、当時の警察庁長官はトクリュウを「治安対策上の最大の脅威である」と位置づけ、「組織犯罪対策の軸足を、これまでの暴力団対策からトクリュウ対策へ大きくシフトすべき転換期にある」と述べています。
もっとも、対策の軸足がトクリュウへ移ったからといって、暴力団も「消えた」わけではありません。むしろ近時は、暴力団とトクリュウが結びつきを深めている実態が指摘されています。暴力団が複数のトクリュウを実質的に配下に置いて犯罪を分担させ、自らの関与を不透明化させる例、逆にトクリュウが暴力団に資金を供与してその威力や人脈を利用する例、両者の結節点となる人物の存在などから、こうした「一体化」がうかがわれます。見えやすい暴力団と見えにくいトクリュウは、いまや地続きの脅威として捉える必要があります。
警戒すべきは資金獲得犯罪そのものだけではない
トクリュウが様々な手口で得た犯罪収益は、マネー・ローンダリング(資金洗浄)によって「使えるお金」に変えられます。
マネー・ローンダリングは一般に、①他人名義(法人名義を含む)の口座に被害金を集約する「プレイスメント(配置)」、②複数の口座を転々と経由させたり、現金化して海外へ持ち出す、暗号 資産に交換して海外の取引所を経由させるなどの手段で出所を分からなくする「レイヤリング(隠蔽)」、③正当なビジネスの売上げや投資利益などに偽装して合法的な資産として表に戻す「インテグレーション(統合)」という3段階で行われます。
資金獲得犯罪とマネー・ローンダリングは常にセットであり、この一連の仕組みこそが犯罪の持続を可能にしているのです。
ここで注意すべきは、預金口座の安易な譲渡・売買は、それ自体が犯罪への加担になるという点です。「副業」と称して集められた他人名義の口座がマネー・ローンダリングに悪用され、口座を売った一般人が犯罪収益移転防止法違反などに問われる例も少なくありません。
「従業員を起点とするリスク」は見過ごされがちな盲点
企業が反社対策に力を注ぐ中で、見過ごされがちなのが、従業員の私生活の領域を入口として会社にそのリスクが持ち込まれるという点です。オンラインカジノ、闇バイト、SNSや地元の人間関係など、いずれも会社の目が届きにくい私生活の領域ですが、まさにそこを入口として、反社会的勢力は企業に入り込んできます。
そして、きっかけが従業員の私生活にあるために会社が気づきにくいこと、弱みを握られた本人が事実を隠してしまうこと、被害者が周囲に相談できる人間関係を加害者側が意図的に断ち切ってしまうことなどから、会社の対策は遅れがちとなり、会社がリスクを認識したときには、すでに被害が大きく拡大していることも少なくありません。
例えば、
・オンラインカジノにのめり込んで借金を重ねた従業員が、消費者金融からの借入もできなくなって闇金に手を出し、闇金から言われるがままに企業の機密情報を外部に流出させた事例
・古くからの知り合いに、「大切な客から代金の支払いがある日に、どうしても出張に行かなくてはならなくなったのでその受取りを手伝ってもらえないか。客から代金を受け取ったらそれを指定する口座に送金してほしい。」と頼まれ、言われたとおりに手伝いをしたところ、その「客」の正体は特殊詐欺の受け子であり、知らぬ間に犯罪収益の運搬役として利用されてしまい、会社の寮が警察の捜索を受けるに至った事例
などが起きています。いずれも従業員の私的な領域から反社が入り込み、会社に重大なリスクをもたらしたものです。
これらの事例が示すように、従業員はある意味で反社の食い物にされた「被害者」ですが、それでも会社には重大なインシデントが生じてしまいます。会社の入口を締めるだけでなく、従業員を通じて社内に入り込まれるリスクにも注意を払って対処する必要があります。
企業は従業員の私生活を入口とするリスクにも備えよ
このように変容する反社リスクに、企業はどう備えればよいのでしょうか。特効薬はありませんが、押さえるべき方向性は明確です。
(1)「行為主義」への回帰と「属性主義」との併用
現在、ほとんどの契約に暴力団排除条項が盛り込まれ、相手方が暴力団構成員であるという「属性」に着目して関係を遮断する仕組みが定着しています。しかし、組織もメンバーもはっきりしないトクリュウには、「属性主義」だけでは対応しきれません。
そこで、従来の属性主義に加えて、暴排条例が施行されて暴排条項が定着する以前に用いられていた「行為主義」に回帰するとともに、その発想を併用することが重要になります。すなわち、相手が「何者か」だけでなく「何をしたか」に着目し、そうした反社会的行為を契約の解除事由として関係を遮断できるよう、平時から備えておくのです。
ルーティン化した属性照会だけに安住することなく、取引相手の行為実態をよく見て、違和感に気づく感度(センサー)を磨いておくこと、属性データベースにヒットしなくても「何かおかしい」と立ち止まれる体制こそが、これからの反社排除では重要になります。
(2)「発見統制」の強化と相談しやすい環境の整備
従業員を起点とするリスクは、入口が私生活の領域にある以上、完全に予防することは困難です。だからこそ、問題をできるだけ早く把握する「発見統制」の強化が対応の鍵を握ります。
第一に、現場の異変やリスク情報が早期に経営へ伝わる仕組みを整えること、第二に、弱みを握られた本人が一人で抱え込まず相談できる環境を用意することの2点が大切です。通常の危機管理体制と同じように、「バッドニュース・ファースト」「バッドニュース・サンクス」という姿勢をトップが号令として示し、違和感の相談を歓迎する姿勢を管理職が体現して、発見統制を実質的に機能させることです。
反社対応の鉄則は「組織で対応する」ことであり、入口が従業員の私生活の問題であっても、会社のリスクとなる以上、会社組織として対応することが大切です。
(3)大事な「人的資本」を守る
人手不足が深刻となり、多くの企業が「人的資本経営」を標榜する現在、大事な人的資本である従業員を守ることは、優先的な経営課題です。従業員の私生活の領域には踏み込めない、という従来の発想から転換する必要があります。
従業員がオンラインカジノや闇バイト、ホストクラブなどのリスクから身を守るための研修を行う、従業員の私生活に対し上司が常に心配りをする(管理ではなくケア)、従業員が私生活で何か問題を抱えた際には会社が相談に乗る窓口を設ける、といった体制を整備して、従業員を守ることが求められます。
結び
反社リスクは、「暴力団」という見えやすい脅威から、「トクリュウ」という見えにくい脅威へと変容しました。その入口は、闇バイトやオンラインカジノ、ホストクラブ、地元の人間関係といった、従業員の私的領域にも潜んでいます。そして、たとえ従業員自身が被害者であっても、会社は重大なインシデントに巻き込まれ得る可能性があります。
企業の対策として必要なことは、発見統制、とりわけ従業員が安心して違和感や悩みを相談できる体制の構築です。反社がその属性を隠し、誰もが反社との接点を持ち得る時代にあって、「組織が見える暴力団と関係を持たない」というだけでは十分ではなく、平時のリスク管理体制の整備から有事の危機対応に至るまで、変容する反社リスクへの備えそのものを、いま一度アップデートしていく必要があります。
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