【Proact’s View Vol.28】「内部監査の独立性」を確保するために―ニデック会計不正事案が投げかける課題

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Points of View

  • 内部監査に求められる独立性には、「経営トップ」を含む経営管理者からの独立性が含まれる
  • 内部監査が「社長の手足」として利用されれば、企業のガバナンスが破壊される
  • 「トリプルレポートライン」が内部監査の機能強化と独立性確保に効果的
  • 経営者は内部監査を私物化しない。内部監査部門は独立性を維持する意識と努力を

内部監査に求められる「経営管理者からの独立性」

 ニデックの会計不正に関する第三者委員会報告書は、社会の大きな注目を集めました。
筆者が注目したのは、経営管理監査部という専門性を備えた内部監査部門が存在しながら、その内側に、創業者である永守氏個人に直属し、正規の監査ラインから意図的に隔離された「特命監査」という調査ルートが存在し、事実上、不正を隠ぺいする仕組みとして機能していた事実です。各メディアからは、まるで「秘密警察」のようだと批判されています。
 こうした内部監査のあり方は極めて特殊に見えますが、筆者は、これを自社とは無関係な事象とみなしてはならないと考えています。特にオーナー色の強い企業や、実務能力の高いトップが強い権限を持つ企業に多かれ少なかれ潜む構造的なリスクが、極端な形で表面化した事例であり、多くの企業への警告と捉えるべきでしょう。
 内部監査の本質のひとつは、経営トップを含む組織全体に対するけん制機能にあります。
 IIA(内部監査人協会)が示す「3ラインモデル」は、「原則5」として第3ライン(内部監査)の独立性を掲げ、「内部監査が経営管理者の責任から独立していることは、内部監査の客観性、権限、および信頼性のために不可欠である」としています(日本内部監査協会事務局 「IIAの3ラインモデル-3つのディフェンスラインの改訂」月刊監査研究、2020年8月号参照)。なお、ここでいう「経営管理者」には、社長・CEOなどのトップのみならず、CFOなど管理部門の責任者も含まれます。また、IIAの「グローバル内部監査基準」は、「独立性とは、内部監査部門が公正不偏な方法で内部監査の責任を遂行する能力を侵害するような状態が存在しないことと定義される」としています(IIAグローバル内部監査基準2024年版ドメインⅢ原則7)。
 内部監査部門が経営管理者の意のままに活動すること自体が、独立性の侵害であることは言うまでもありません。
 しかし、日本企業、とりわけオーナー色の強い企業やスタートアップでは、経営トップが第1ライン(現場部門)、第2ライン(管理部門)のみならず、第3ライン(内部監査)にまで強い影響力を及ぼしている例が少なくありません。組織図上も内部監査が社長直属とされていることが多く、実質的に社長の指揮命令の下で動く「コマ」のように扱われている例も多くみられます。

社長の手足と化した内部監査によるガバナンス破壊

 実務能力が高く、統治意識の強い社長ほど、内部監査を自らの手足として、理想とする組織運営を実現するための道具として扱いがちである点に注意しなければなりません。
ニデックの特命監査は、まさにこの傾向が行き着いた先の姿だったといえます。
 第三者委員会の報告書によれば、特命監査の担当者は、経営管理監査部に籍を置きながら通常の監査業務には従事せず、永守氏直属で秘密裏に調査を行い、発見した不正の是正も、直ちにではなく「計画的に」複数期にわたり処理するよう指導することがあったとされます。第三者委員会は、こうした是正の先送りはそれ自体が会計不正であると指摘しています。
 しかも、特命監査の内容は経営管理監査部の一般職員はもとより会計監査人にも共有しない取決めがあり、通常の内部監査でも、拠点から「特命監査で指摘済み」と説明されれば調査は打ち切られる運用だったといいます。第三者委員会は、この担当者を「ニデックのガバナンスシステムの外側の存在であった」と評価しています。特命監査は、ガバナンスを外側から破壊し続けていたと言っていいでしょう。
 また、見過ごしてはならないのが、内部監査担当者の内心です。
報告書の記載からすると、特命監査担当者は、永守氏との強い信頼関係に基づき、永守氏の価値観を実現することを自らの使命と考えていた節があります。内部監査担当者が自らの役割を「経営者個人への貢献」と捉えている例は、他でも見かけることがあります。この場合、不正を発見しても、経営者を守ることを理由に、指摘よりも隠ぺいや先送りを優先してしまう危険性が生じます。第三者委員会が、特命監査の担当者のみならず経営管理監査部全体についても「永守氏の経営理念を否定することへのおそれが存在したものと思われる」と指摘し、そのけん制機能が発揮されていなかったことを不正の原因の一つとしている点も見逃せません。
 内部監査は、経営トップから、その意見や経営者としての成功に寄り添う存在であることを期待されがちですが、その期待に応えることと、独立した立場から客観的にけん制機能を果たすこととは緊張関係にあります。不正の是正が経営トップの個人的な判断やタイミングに委ねられれば、それは規律ではなく恣意に基づく統治であり、不正の継続を許すことになります。
 ニデックの事例は、内部監査部門の独立性が失われた場合にどの会社にも生じ得るリスクを、端的に示したものと捉えるべきでしょう。

独立性を実質化する仕組みートリプルレポートライン

 内部監査の独立性を確保する仕組みとして重要なのが、経営トップだけでなく、取締役会・監査役会等にも直接の報告ラインを持つ、複線的なレポートラインです。
 日本企業では、日本内部監査協会が定める「内部監査基準」が「内部監査部門は、組織上、原則として、最高経営者に直属し」と定めていることに従い、内部監査を社長直属の組織とすることが一般的です。しかし、同基準が、続けて、「同時に、取締役会または監査役会もしくは監査委員会への報告経路を確保する」と定めていることは忘れられがちです(内部監査基準[2]2参照)。日本国内では、経営者側は内部監査の真の役割について理解度が低く、また、内部監査担当者の側では組織への帰属意識が高い反面、独立性への意識が低くなっていることが原因と考えられます。
 こうした経営トップと取締役会または監査役会等への報告経路は、一般に「デュアルレポートライン」と呼ばれますが、筆者は、経営トップに加え、取締役会および監査役会等の双方へのレポートラインを確保した「トリプルレポートライン」と呼ぶべき体制が、日本企業には望ましいと考えています。
 この仕組みの意義は、単に情報共有の経路を増やすことにとどまりません。第一に、社長自身の不正関与が疑われる事案など、経営トップへの報告だけでは適切な対応が期待できない場面でも、監査役等や社外取締役が主体的に動けるため、内部監査の実効性が高まります。第二に、報告先が経営トップに一元化されていないこと自体が、内部監査が特定個人の意向に従属することを構造的に防ぎ、独立性を担保します。つまり、トリプルレポートラインは、内部監査の機能強化と独立性確保という二つの要請を同時に満たす重要な手段なのです。これに加え、内部監査に対する人事評価も社長に専属させるのではなく、トリプルレポートラインを活用して、取締役会や監査役会等に分属させる措置をとることができれば、なお独立性の確保に資することになります。
 経営者が内部監査を信頼し頼りにすることと、自らの統治観や経営理念を実現するための私的な道具として囲い込むこととは、似て非なるものです。後者は、短期的には経営者の思い描く統治を実現できても、中長期的には企業のガバナンス基盤そのものを破壊します。特命や機密の名の下に内部監査を私物化することは、いかなる理由があろうとも厳に慎まなければなりません。
 内部監査部門の側も、独立性は組織図上の建付けだけでなく、日常の報告ラインの充実、独立性を阻害する試みへの抵抗、経営トップとの適切な距離感によって維持されるものであることを、改めて意識し、自ら努力する必要があります。
 グローバル内部監査基準は、内部監査部門が多くの場合、1人の経営管理者と指示・報告関係にあることを指摘しつつ、「これにより、最高経営者へのアクセスが可能になり、経営管理者の見解に異議を唱える権限が与えられる」としています。ここで述べられている最高経営者と経営管理者は、同一人であるパターンと別人であるパターンと両方が考えられますが、いずれにせよ、経営トップとの直接の関係は、その手足となるためではなく、適切に意見を述べ、組織を正しい方向に導く助言の機会を確保するためにあるのです。そして、仮に、自らの意見に耳を貸してもらえないような場面があれば、監査役会等への直接のレポートラインが効いてきます。内部監査担当者には、常に、「自らの意見を適切に経営に届ける」心意気をもって職務に臨んでほしいと考えています。

 なお、内部監査部門の独立性やIPO準備企業における内部監査の課題について、筆者もその一部を執筆した書籍『IPO準備企業の内部統制のリアル:内部監査人「汐田はるか」の挑戦』(中央経済社、2026年)が発売されています。こちらでも詳しく取り上げていますので、ご関心のある方は、是非ご参照ください。https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-59331-4