【Proact’s View Vol.26】「発見統制」を実装する―不正発見型コンプライアンスアンケート
Points of View
- 意識調査型のアンケートでは見えないリスク情報を直接吸い上げる
- 鍵は「役職員が安心して回答できる制度設計」―独立・外部の専門家による匿名調査
- 内部統制の問いは「発見統制」をどう有効化していくか
はじめに― 「発見統制」の実装のために
今年7月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードは、「内部統制や先を見越した全社的リスク管理は、適切なコンプライアンスの確保により持続的に信頼を維持し、リスクを最小化するために重要であるのみならず、経営陣が果断にリスクテイクを行うための裏付けとなり得るものであるから、取締役会は、グループ全体を含めたこれらの体制を適切に構築する」としています(原則4-4解釈指針)。
また、日本取引所自主規制法人の「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」は、不正の芽の察知と機敏な対処(原則4)という目的を果たすために、実を伴った実態把握(原則1)や双方向のコミュニケーション(原則3)という各取組みを行うとしており、不祥事の未然防止(予防統制)に加えて、早期発見・早期是正(発見統制)を重要視しています。
本稿では、会社が不祥事の発見統制を実装・強化する方法として、従来型のコンプライアンスアンケートとは性質を異にする「不正発見型コンプライアンスアンケート」をご紹介します。
1.「意識調査」ではリスク情報を見つけることができない
企業が実施してきた従来型のコンプライアンスアンケートは、社内規程等のルールの理解度やハラスメントに関する知識の定着度を定期的に問う「意識調査」が中心でした。このような意識調査は、たしかに、役職員の意識の変化を測り、社内研修の効果を確認する意味をもちます。しかし、回数を重ねる毎にマンネリ化して前年比で数値を上げることが目的化するほか、実際に起こっている事例や事象を尋ねるものではないため、現実のリスク情報は取得できないという限界があります。
これに対し、不正発見型コンプライアンスアンケートは、現場のリスク情報そのものを直接取得することを目的とします。役職員が働く現場において、実際に問題は起きていないか、問題が起こっている場合にはその内容を具体的に問います。これにより、現場に存在するコンプライアンスリスクを直接拾い上げることが可能になります。
2.リスク情報は現場に滞留しがちになる
リスク情報は現場に埋もれてしまうと言われます。その原因はなんでしょうか。
最大の要因は、声を上げることへの心理的なハードルにあります。たとえば重大なハラスメント事案であれば、報復されるのではないか、職場で居場所を失うのではないかという懸念から、被害者やその周辺者らはコンプライアンス報告や内部通報をためらいます。その結果、コンプライアンス部門による発見が遅れて、事態が深刻化します。
このことは、意図的に隠蔽された不正(着服横領・キックバックなど)や、長期間にわたり多数の役職員が関与している職場ぐるみの不正(品質不正など)であればなおさらであり、2線の内部統制や3線の内部監査による発見も容易ではなくなります。従来の意識調査型コンプライアンスアンケートによったとしても、このような具体的なリスクは表面化しないので、埋もれたリスク情報を取得する手段として、別のアプローチが必要です。
3.「聞かれれば答える」層を動かしリスク情報を取得する
内部通報制度は、発見統制のツールの一つですが、役職員がいわば能動的に通報することが前提となっている仕組みであるのに対し、不正発見型アンケートは、会社側から役職員に対して問いかけて受動的に回答することを促すものです。会社には、聞かれてもいないのに通報することには躊躇するものの、会社から聞かれれば「待ってました!」とばかりに喜んで答えるという層が相当数存在します。なぜなら、多くの役職員は、不正や不祥事、コンプライアンス違反と隣り合わせの危険な職場で働きたいとは思っておらず、そうした悪しき職場環境を改善してほしいと強く願っているからです。
経営トップのメッセージとともに不正発見型のアンケートを実施すること自体が、不正を早期発見して職場環境を改善するという経営層の本気度を社内に示すことにもつながるのであり、不正発見型アンケートの実装により、このような経営サイドの姿勢を可視化することができ、リスクを予防する効果を発揮します。
4.不正発見型アンケートの制度設計
では、不正発見型アンケートを実際に導入するにあたり、どのような制度設計をとるべきでしょうか。
上記で述べたとおり、リスク情報が現場に滞留する要因として、役職員たちが会社に報告することにより報復等の不利益を受けることを恐れる(心理的安全性の欠如)という点があります。
したがって、アンケートの設計にあたっては、役職員がいかに安心して回答でき、かつ、具体的なリスク情報を拾い上げる制度・環境を作り込めるかが重要となります。
具体的に整理すると、以下の点が重要となります。
(1)調査主体の独立性
会社から独立した外部の法律事務所を調査主体として、回答者の安心感を高める。
(2)実名回答及び会社への匿名化
法律事務所には実名で回答してもらう一方で、法律事務所が会社にアンケート結果を伝える際には、誰が何を答えたのか分からないように匿名化する。匿名性が徹底されたアンケート調査であることを事前に役職員たちに周知するこで、回答者の安心感を高める。
(3)リスク情報に関する具体的かつ直接的な質問
どのようなリスク情報を求めているかを具体的に示しながら直接的に質問し、回答者が迷わずに持っているリスク情報を提供できるように促す。たとえば、ハラスメントがあるかという抽象的な問いでなく、セクハラ、パワハラ、カスハラなど具体的な類型として問い、被害者と加害者を特定する情報も引き出す。
(4)直接体験だけでなく「見聞き」したことの質問
自らが直接体験したことだけでなく、そのようなリスク情報を「見聞き」したことがあるかも問うことにより、幅広く職場に存在するリスク情報を取得する。これにより、直接の被害者が回答を避けても、周辺者から情報を取得することができる。
(5)リスクベースアプローチによるオーダーメイドの設問設計
すべてのリスク情報について網羅的に大量に質問するのではなく、その会社が現在最も高いリスクだと感じている不正・不祥事の類型に質問を絞り込むことにより、ハイリスクな情報を効率的に取得できる。あるいは、不正発見型アンケートを毎年定期的に実施することで、都度テーマを変えながら数年かけて幅広いリスク情報を網羅的に取得することができる。
以上を図式化すれば、不正発見型アンケートの全体構造としては、下図のようになります。

5.アンケート調査後の対応
アンケートの実施により、リスクを抽出し、匿名化したレポートを会社に提出することで、その後のリスクマップ更新や個別リスクに応じたリスク管理の高度化につなげるという内部統制の強化がメインとなります。
また、問題となる個別事案を発見し、匿名化して会社に情報を提供し、会社が調査を行いたい意向を示した場合には、アンケート回答者に意向を確認し、回答者が調査を了解した際には、より具体的なした情報を会社に提供し、回答者を守りながら調査を進めることができます。
<実際の調査・作業のフローイメージ図>

おわりに― 人的資本経営の推進につなげる
以上のとおり、不正発見型コンプライアンスアンケートは、具体的なリスク情報を取得することで、発見統制の実装・強化を図るための有力な手段となります。
多くの役職員は、不正や不祥事、コンプライアンス違反と隣り合わせの危険な職場で働きたいとは思っておらず、そうした悪しき職場環境を改善してほしいと強く願っています。そうした願いに経営層がきちんと応えて、大切な人的資本である役職員を不正や不祥事から守ることは、「人的資本経営」を大きく推進する力となります。
プロアクト法律事務所では、これまでの有事の不正調査や平時の発見統制強化のサポート業務を通じて蓄積した知見と経験を踏まえ、不正発見型コンプライアンスアンケートを数多く受託しています。ぜひお気軽にご相談ください。
